『検察側の罪人』「正義」の結末

検察側の罪人

作品情報

監督・キャスト

監督: 原田眞人
キャスト: 木村拓哉、二宮和也、吉高由里子、松重豊、平岳大、八嶋智人、大倉孝二、山崎努、矢島健一、音尾琢真、キムラ緑子、芦名星、山崎紘菜、酒向芳、長田侑子

日本公開日

公開: 2018年08月24日

レビュー

☆☆☆

劇場観賞: 2018年7月24日(試写会)

 
原作は雫井脩介の同名小説。

 
公開一か月前に東宝試写室で観賞して、バンバンとテレビで流れている予告を見ながら、「よく出来た予告だなぁ」と、いつも思っている。

 
二宮さんが松倉の取り調べでバーーンっとやっているシーンも、木村さんの「検事でいる意味がない!」のシーンも、いかにもカッコ良さげだけれども……

実は、キャーーかっこいい~~……というシーンではないものね……。
 『検察側の罪人』感想

あらすじ

都内で発生した殺人事件。犯人は不明。事件を担当する検察官は、東京地検刑事部のエリート検事・最上と、刑事部に配属されてきた駆け出しの検事・沖野。最上は複数いる被疑者の中から、一人の男に狙いを定め、執拗に追い詰めていく。その男・松倉は、過去に時効を迎えてしまった未解決殺人事件の重要参考人であった人物だ。最上を師と仰ぐ沖野は、被疑者に自白させるべく取り調べに力を入れるのだが、松倉は犯行を否認し続け…(Filmarksより引用)

ラストの叫び

観賞後感のドンヨリが半端ない。沖野はこのあとどうなってしまうのか。確かにこうなっても良かったのかも知れないけれどもこれでは検察官でいる意味なんてない。モンモンと考える。

こういう余韻の映画は好物だけれども、じゃあ「正義」って何

 
あのフレーズが繰り返される劇伴がもう耳に残って残って頭の中でグルグル回るのである。インパール作戦の生き残りだという最上の祖父。国家の馬鹿な作戦を誇りとして胸に刻み、グルグル回りながら逃げてきた記憶……学生時代から逃れられない最上の記憶。それがリンクしてあの曲に乗ってくる。

劇中に出て来る「インパール作戦」とは

インパール作戦とは、太平洋戦争時、ビルマからインド北東部の都市・インパールを攻略する目的で立てられた。

なぜそんな所を攻略しようとしていたかというと、敵軍である米・英が中国を援助するための輸送路だったから。そこを断てば勝てると思ったらしい。

しかし、断たれたのは相手の物資ではなく、日本側の物資だった。無謀な計画で食料が無くなった日本軍は飢餓による衰弱やマラリア、赤痢などの病でバタバタ死んでいくことになる。その数、3万人。

退却路には無数の遺体が転がり、その悲惨な様相は「白骨街道」と名付けられた。

 
……という話が諏訪部(松重豊)の口から何度も語られる。上にも書いたが、この映画は最上の思考がこのインパール作戦とリンクしているので(というように描かれているので)見る前にある程度は押さえた方が良いかと。

設定では、諏訪部の父がインパール作戦に参加していたので、同じく参加していた祖父を持つ最上にシンパシーを感じている。という体になっている。(重要な部分なのだけれども、劇中では意外と説明が少ない)

演技対決

ニノとキムタクの演技対決……のような話題になっているけれども、お2人とも見応えある演技をしていらしたと思う。

二宮和也の厳しさと熱さと優しさ、綯い交ぜる演技、やはり上手いなぁ。

正しさを追う沖野と共に歩む橘を演じる吉高さんもすごく良かった。木村さんも強さから弱さまでの表情の差。

 
そして何より誰より、松倉をあそこまで気持ち悪く演じた酒向芳さんが凄い
『検察側の罪人』感想 松倉

 
個人的には、助演男優賞は酒向芳さんに捧げたい。

意外と長く感じなかった

『関ヶ原』の時にも言われていた「時間経過のすっ飛ばし方」「分かりにくい専門性」は前半1/3くらい感じたところ。原田監督作品の特徴なのか(笑)汚職関連は「分かったような感じで見てね」って感覚。(本当はここがインパールに繋がる大事な所なのだろうけど)

 
話が老夫婦刺殺事件に入ってからは、もうガッツリ。

後半は目が離せず、うわぁ!と思いながら見て、突き落されるようなラスト。

 
夏に見るには涼しくなってちょっとイイかも知れない恐さ。

堅い物が観たい方にお薦め。

 


以下ネタバレ感想

上にも書いたけれども、予告のニノが松倉を責めているシーンは、橘沙穂が暴力的な取り調べを密かに取材している図だから、そんなに怒鳴ったり机を叩いたりしちゃダメだーーとハラハラするし、最上の「検事でいる意味がない!」のシーンは、無謀な冤罪計画に沖野を巻きこもうとしているオマ言うシーンだし、どちらも「中の人カッコいい~~」とか言ってる場合じゃないんだよね(笑)

そういう意味で「上手い予告」。
 

松倉は確かにクズだけれども「やっていない」事件で逮捕するのは冤罪。それをしてしまったら司法に正義はなくなる。まさに「検察側の罪人」になった最上。
 

弓岡もクズだけれども、法で裁く以外の場所で勝手に罰を与えるのは完全な罪人。ドキドキしたなぁ……弓岡の背中から追っていくシーン。あそこの木村さんの演技は好きよ。
 『検察側の罪人』感想

 
当方は原作未読だけれど、原作では最上はラストに捕まるのだそうで。

だよね……そうじゃなきゃ、沖野くんは何のために戦ったのか分らないじゃないか。

 

こんな男が司法の世界に存在する恐さを監督は現在の政治と照らし合わせ、また無謀なインパールとリンクさせて語りたかったのかも知れない。

それが成功したかというと微妙な気はするけれども、個人的にはこのラストの余韻は好き。
 

◆トラックバック先

検察側の罪人@映画生活トラックバック
・象のロケット
★前田有一の超映画批評★
◆Seesaaのトラックバック機能終了に伴い、トラックバックの受け付けは終了させていただきました。(今後のTBについて)

comment

タイトルとURLをコピーしました