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デヴィッド・ボウイ追悼『戦場のメリークリスマス』狂気を制するものは愛なのだよ

戦場のメリークリスマス

英題 : ~ Merry Christmas, Mr. Lawrence ~

作品情報

監督・キャスト

監督: 大島渚
キャスト: 坂本龍一、デヴィッド・ボウイ、ビートたけし、トム・コンティ、ジャック・トンプソン、内田裕也、ジョニー大倉、室田日出男、戸浦六宏、金田龍之介、三上寛、内藤剛志、本間優二、石倉民雄、飯島大介、アリステア・ブラウニング、三上博史、ジェイムズ・マルコム

日本公開日

公開: 1983年5月28日

受賞

1983年英国アカデミー賞作曲賞受賞(坂本龍一)
1984年日本アカデミー賞優秀音楽賞(坂本龍一)
他・受賞・ノミネートあり。

レビュー

☆☆☆☆

劇場観賞: 1983年6月
レビュー : 2016年1月22日 NHKBSプレミアム視聴時
 

2016年1月10日。デヴィッド・ボウイが69歳でこの世を去った。

以前はクリスマスの度にどこかしらで放送していたような気がする『戦場のメリークリスマス』を久々に観た。

この美しい人が本当にもう居ないのか…という実感。
ここには恐らく一番美しかった頃の彼がいると思う。
過去に許しを請い、あの時、弟に与えられなかった愛を敵兵に与える決意の瞳。

このレビューは2016年、デヴィッド・ボウイが亡くなった時に記した短感です。ネタバレには特に配慮していません。

あらすじ

1942年、ジャワの日本軍俘虜収容所。まだ夜が明けきらない薄闇の中、日本軍軍曹ハラは英国軍中佐ロレンスを叩き起こす。朝鮮人軍属が白人俘虜を犯すという破廉恥な事件が起きたため、ハラが独断で処分する立会い人として、日本語を自由に操るロレンスが必要だったのだ。そこに収容所長のヨノイ大尉の気合が響く。隙を突いて朝鮮人軍属は銃剣を自らの腹に突き立てる。ジャカルタの軍事裁判で英国軍少佐セリアズが裁かれている。彼に熱い視線を送るヨノイ。茶番の処刑劇を経て、セリアズは収容所に移送される。そして、それがすべての厄災の始まりだった……(「戦場のメリークリスマス」Amazonプライムより引用)

坂本龍一の名曲を愛す

 
公開当時には、とにかく坂本教授の音楽と美しい人たちに持って行かれながら観た記憶がある。

どんな虐待がスクリーン上で行われていようが、青い空に揺れる緑濃いヤシの木と白茶けた砂の風景の方がより強く、あの曲のPVのように心に切なく残る。

ウチの夫はあの曲を「カタツムリのよう」というが、あながち間違いでもないかな。

基本的なメロディは単調でノロノロと続く。

あの、ちょっと可愛らしくも感じてしまう~♪タタタタタン♪~タタタラタタ~♪タタタタタン♪~♪~を聞きながら私の頭にいつも浮かぶのは、みんながカタツムリのように行進していく図なのだから。

ヒックスリー俘虜長も、他の俘虜たちも、ハラ軍曹もロレンスも、みんな列になって去っていく。

それを見送る、砂に埋まったセリアズの首。

あの頃は日本人がこんな虐待を行ったという戦争の狂気に涙して見ていたが、久しぶりに見ると有りえないほどリアリティに欠けているように感じる。

ヨノイ大尉の武士っぽさはカッコ付けのように見えるし(演技のせいかも知れないけれど…そしてメイクのせいかも知れないけれど…)、何よりもボウイのスタイリッシュさはとても捕らわれた人には見えない(笑)

けれども、そんな事はどうでもいいのだった。
だって、これは愛の物語なのだから。

弟を救う事が出来なかった過去を痛みとして抱えるセリアズが、明らかに自分への想いがあると解っている敵の将校に愛を与える。それが、あのキスシーン。

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計算はあったと思う。とても残酷な計算が。
この男は自分を愛しているから、こうすれば俘虜長は助かるだろう。という捨て身の計算。

そして、同時にヨノイに語りかけるのである。愛があるならその剣を捨てろと。

打ちのめされて倒れたヨノイにそれ以上の戦意はない。

髪の一束を取り、日本へ埋める。その後日談に死して想い適ったヨノイのほんの小さな幸せを感じさせられた。

あの日、ハラはロレンスを救ったのだから、ラストの“Merry Christmas, Mr. Lawrence”「今度はお前があの時のようにオレを助けてくれ」という意味だと受け取る筋もあるらしい…。私はそうは思わない。

ハラがあのクリスマスの事を言い出したのは、単に刑を前に2人の奇妙な友情を思い出しただけでありロレンスにもそれを覚えていてほしかったからだろうと、私はそう思っている。

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狂気の中でも愛情も友情も育つのだ。狂気の中だからこそ、人間はそういう物を欲するのだろう。人間らしくありたいという気持ち。

ラストの「メリークリスマス!メリークリスマス、ミスター・ロレンス!」は、もう日本語にしか聞こえない。

ビートたけし という人を役者として上手いと思った事は実は1度もない。

けれども、今回思ったよ。
ああ…この透明感のある無邪気な笑顔じゃなきゃ駄目だったんだな、イケメンでも上手い役者でもなく、と。

不器用の中に宿る純粋さが一気に表に出た…そういう笑顔だった。

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坂本龍一もしかり。
このキャストで作ったからこその名作。

セリアズもレッドフォードではなくボウイじゃなきゃダメだった。
あのヨノイを翻弄した悪鬼のような笑顔でね、行進を見つめ続けていてほしい。

「Merry Christmas Mr. Lawrence」が、葬送曲に聞こえた。

 

デヴィッド・シルヴィアンのボーカル曲も実はあるの

余談ですが、実はこの『戦場のメリークリスマス』にはデヴィッド・シルヴィアンが歌い上げたヴォーカル曲もある。

禁じられた色彩(Forbidden Colours)

もちろん、勝手に歌っているわけではなくて坂本教授と元Japanのヴォーカリスト・デビシルがお友達だからできた企画なのだけれど。

当時から賛否両論でしたが、私は好きなのですよ。機会があったら、ぜひ、こちらも。



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★前田有一の超映画批評★
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comment

  1. sis より:

    Twitterにも書いたのですが、改めてここにも。
    私も、あのラストの「メリー・クリスマス、ミスター・ローレンス!!」は、
    やはり、ハラの
    「覚えてるかい?あの時を」
    「おれお前結構好きだったよ」
    という不器用なラブ・レターでもあり、魂の救済の一言でもあったと思うのです。
    一つには、もちろんローレンスの救済である。ハラに助けてもらったのに、自分はハラを救えなかったという悔悟の気持ちから。
    もう一つは、ハラ自身の救済。
    誰だって、しぬのはイヤだ。
    そして、どうせしぬのなら、辛い、苦しい思いではなく、
    幸せな思い出に包まれて、安らかにいきたい。
    だから、ハラの魂は救済されたがっていた。そして、ハラは彼自身で救済したのである。自らの魂を。
    戦争の中の、ありとあらゆるしがらみからの解放と、救済。
    だからあの笑顔なのだ。
    思えばハラは、粗暴ではあったが無邪気な奴だった。