『あなたへ』「私は今日、鳩になりました」

あなたへ

   

監督: 降旗康男   
出演: 高倉健、田中裕子、佐藤浩市、草なぎ剛、余貴美子、綾瀬はるか、三浦貴大、大滝秀治、長塚京三、原田美枝子、浅野忠信、ビートたけし
公開: 2012年8月25日

2013年8月18日。テレビ朝日系地上波TV観賞。

こういう重鎮的な大俳優ありきの日本映画にはなかなか食指が動かないので、テレビでやってくれたら見ようと思っていたら、もうやってくれた。

で、実際に、高倉健さんありきの映画だった。

決してそれが悪いという意味ではなく、健さんが映画の中にいる…それが作品に重みを出し、1つの世界を作り上げているのだから、それはそれで素晴らしいことだと思う。

北陸の刑務所で指導技官をする倉島英二は、亡くなった妻の遺言通り妻の故郷の海へ散骨するために三陸から長崎まで旅をする。その中で様々な人と関わっていくロードムービー。

高倉健さん主演だから脇も主演クラスの俳優さんが揃っている。ビートたけし、草薙剛、佐藤浩市、綾瀬はるか…。
浅野忠信なんて、ほんのチョイ役で顔を出す。

この辺は、やはり「豪華」というべきところ…。

人と出会い、それぞれの人生や言葉と関わりながら長崎へ辿り着き、妻の最後の手紙を見る主人公の心の変化が淡々と描かれる。

健さんには、やはり「淡々」が似合っている。

そして、登場人物それぞれも意外と淡々としているので…ストーリーはのっぺりとあまり抑揚なく進んでいくのであった。

ただ出会っては別れていくわけでは無くちゃんと繋がりがあるのだけれど、ミステリーというほどではないし、変化を求める向きには合わない作品かも知れない。

ロードムービーなのだから旅の風景を楽しめばいいわけで、妻の洋子がかつて歌った思い出の地、天空の城・竹田城跡の風景は特に素晴らしい。

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(画像は作品とは関係ありません。朝来市のHPよりお借りしています。)
ここは、ぜひ行ってみたいと思った。(2013年8月現在は一部通行止めだそうです)

しかし、竹田城跡以外の風景が案外心に残っていないのはどういう事……。
せっかくのロードムービーなのに意外と風景が大切にされていない気がしてしまうのだった。

オールロケだという話だった(気がする)のに、風景がなぜかセットCGと思えてしまうシーンが何か所か。

いや…テレビで見ているせいなのかも知れないけれども、何度か「え」と思った。気のせいでしょうか。

台風の荒波は仕方ないとしても、ビートたけし演じる男とコーヒーを飲むシーンのバックの風景やホテルの窓に映る風景など、う~ん…何だか加工されてるっぽい…。

どうせロードムービーならば作られていない風景が見たいよ…と、ちょっと思ってしまったのだった。

ツッコミを入れてしまうと、主人公60歳(と、ちょっと)という年齢には無理がある…気がする。いや、健さんお若いけれどもね、60歳はないだろう…。

妻の遺言に込められていると思われるメッセージと、主役の「年齢」はとても重要な関わりがあると思うので…つまり人生がどれだけ残っているかによっては残酷なメッセージになってしまうので、その点で違和感があった事は残念な結果に思えてしまう。
(この辺の事は下のネタバレ欄で)

いい映画なのだろうけれども、個人的にはあまり感動も感銘もなく、見終わった感想も「健さんの映画だ」以上のものは無かったかも知れない。

命や人生に関わる重いテーマを淡々と描き切った事は称賛するが、逆に淡々としすぎて心に残る物が軽くなってしまった感じ。

そして、ラストエピソードである「ある家族」の話に全部持っていかれたような終りになってしまったのも、ちょっとどうかと…。

森沢明夫氏がこの脚本を元に小説化したという話なので、つまり映画自体は原作ありきではないらしい。

全く同じ作品を小日向さん辺りを主役に中村義洋監督とか…が撮ったら全然違うロードムービーになるんだろうな…なんて、ちょっと思ってしまった。テーマは奥田民生の「さすらい」で。
自分的には、たぶんそっちの方が好み。

そういう風に思ってしまうほど、ストーリー自体は良かったので…。

ここから下ネタバレ観てない方は観てから読んでね 


佐藤浩市演じる南原さんが草なぎくん演じる田宮の部下だという設定は面白かった…けれども、その時点ですでにワケありな雰囲気。 さらには、舟が出せなかったら、と貰った連絡先がいかにもワケあり…。

長崎に着いた時点で、あれ、もしかしたら綾瀬はるかのパパが浩市さんなのか、とは思ったけれども、年齢的にそれはないだろう…と勝手に否定してしまった。後々から考えると、全然「ない」事はないよね。でも、余さんが浩市さんの妻、という設定もピンと来なかったのだ。ちょっと姉さん女房すぎる気がして。

結局、そういう年齢的なイメージをかなぐり捨てれば、疑いなく、遭難した夫が南原なのだと解って見れたのに。それとも、これは役者の見た目年齢でミスリードさせるためのキャスティングだったのか

家族に会いたくても保険金詐欺を行ったとあっては今さら帰れない南原。
明るく楽しんで仕事をしているように見えたのに、妻が不倫しているから家に帰れない田宮。
どういう理由か…家がないらしい自称・元教師、現車上荒らしの杉野。

「旅と放浪の違いってわかりますか?」
それは、「目的があるか否か」また「帰る所があるか否か」。そういう杉野。

結局、英二が出会った人たちは、みんな帰る所のない放浪者だった。

そして、妻のお骨と初めての長旅を行った結果、妻から送られた言葉は「さようなら」。

恐らく、妻は想像する。長崎へ散骨してほしいと頼めば、ここに最期の遺言を託せば、夫と長旅が出来ると。

そして、長旅の後は「解放」である。
「さようなら」は、「これからは自由に生きてください」という事。
夫は妻から放浪の薦めを受けたのだ。

それは愛情なのかも知れないけれども…どうなんだろう。
英二が65歳だとして。

65歳から放浪したいかなぁ…ちょっとキツイ気がする。

ましてや健さんの実年齢81歳だったら、もう放浪なんてしたくないと思うよ、絶対に。
これが、上に書いた年齢が重要だという事。
年を取れば人間、思い出に縛られて生きていく方が幸せだという事もあるでしょう。
「放浪の薦め」は、残酷な薦めかも知れないよ。

もっとも、退職届けを郵送した英二は放浪者になることを決めたらしい。

「私は今日、鳩になりました」

78歳の降旗監督からの、年長者へのエールにも聞こえる…。まだまださすらおうぜってところかなぁ…。

もう少し、年齢を経てもう一度見てみたら、新たな良さが解るのかも。
今の自分は…あまりさすらいたくない。

※大滝秀治さんの遺作となりましたね。ご冥福をお祈りします。
飄々として頼もしく優しい存在感。素晴らしい俳優さんでした。

 

 


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