『もうひとりのシェイクスピア』言葉で世界を変える

もうひとりのシェイクスピア~ ANONYMOUS ~

  

監督: ローランド・エメリッヒ   
出演: リス・エヴァンス、ヴァネッサ・レッドグレーヴ、ジョエリー・リチャードソン、デヴィッド・シューリス、ゼイヴィア・アミュエル、セバスチャン・アルメストロ、レイフ・スポール、エドワード・ホッグ、ジェイミー・キャンベル・バウアー
公開: 2012年12月22日

2013年7月1日。DVD観賞。

不勉強でこの映画を見るまで知らなかったのだが「シェイクスピア偽物説」というものが、かなり古い時代から存在するらしい。
根拠は主に以下の3点。

自筆の原稿が存在しない。
公式の文書に6つの異なった署名が存在する。
遺言書で本や戯曲についてひと言も触れていない。

この映画はその歴史の「if」を題材に描かれた物語。

と言っても、荒唐無稽な歴史ミステリーではなく、人の心が複雑に入り乱れ絡まっていく様子を丁寧に誠実に描いた上質な歴史サスペンスである。

16世紀末、エリザベス1世王朝期。
戯曲家のベン・ジョンソンは身分の高い男から呼び出しを受け、男が書いた作品を自分の作品として劇場で上演するようにと依頼され、金を渡される。
男は王宮の権力者・ウィリアム・セシルの娘婿であるオックスフォード伯エドワードだった。

実際にシェイクスピアの「本物候補」としてオックスフォード伯エドワードは有力なのらしい。しかし、この作品は誰が本物のシェイクスピアなのかという事を追う物ではなく、完全なる宮廷陰謀物語だ。

シェイクスピアはどう関わって来るのかというと、劇場で民衆の熱狂を見たエドワードが言葉で人の心を動かそうと考える…「言葉」の力と強さを信じる物語。
    

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とにかくストーリーの構成が素晴らしい。
登場人物全ての心の動きが結末へと事を導いていく。

作家としての才能、生まれの違い、容姿、親子、夫婦…登場人物がそれぞれの人物へと抱える嫉妬や羨望や僻み…それが少しずハメ違えたパズルのピースのように複雑に物事を歪ませていく。

エセックス伯の反乱がこんな風に物語に絡んで来るとは思わなかった…本当に凄い。

セット、道具、衣装…美術面でも目を奪われる細かさと豪華さ。
   

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まるで、この物語こそが「if」ではなく真実の歴史のようにすら思えてくる。

ローランド・エメリッヒ監督…「インデペンデンス・デイ」「2012」のようなディザスタームービーよりも、こっちの方が全然いいよね…。
失礼ながら、人の心の複雑さや闇の部分をこんなに素晴らしく描ける方だとは…パニックムービーを見ている限りでは思えなかったので…。すいません。

 

ここから下ネタバレ観てない方は観てから読んでね 

    


結果…言葉は陰謀に勝てなかった。
せむしのロバート・セシルの虚言に女王の心は揺れ、真実は失われた。

もしも、エドワードが「リチャード三世」の話をベン・ジョンソンに通していたら…。
ベン・ジョンソンが通報することは無かっただろう。
しかし、エドワードは自分の戯曲に拍手を送らないベン・ジョンソンを通す事を避けた。小さな拘り。

もしも、ウィリアム・シェイクスピアがベン・ジョンソンを出入り禁止にしなかったら…。
ベン・ジョンソンはもちろん通報することは無かっただろう。
しかし、ウィリアム・シェイクスピアは本物の戯曲を書く事が出来るベン・ジョンソンに嫉妬していた。だからこその小さな復讐。

もしもエドワードがもっと妻に思いやりを見せ義父と上手くやっていたら…。
もしもウィリアム・セシルが息子のロバート・セシルに大きな愛情と期待を持って育てていれば…。

たくさんの「if」が上手く働かなかった結果、言葉による革命は成し得なかった。

まぁ…それが成し得ていたら、エリザベス1世の後継はジェームス6世ではなくなっていたかも知れず、歴史は変わっていたかも知れない。

歴史の「if」は、だからこそ面白い。
そして、悲しい。

結局、エドワードはシェイクスピアの戯曲が自分の物だと名乗る事は出来ず、貧困の内に亡くなって行く。
けれども、彼は死の間際に最も大きな喜びを得る。

ベン・ジョンソンによる、自分の作品への称賛。

エドワードの最期に、やっとこれほどの才能を持ちえなかった嫉妬を告白するベン・ジョンソン。 悲劇に終わった切ない物語の中で、2人がそれぞれ救われた時。

名は残せなくても、エドワード…ウィリアム・シェイクスピアの「言葉」は世界中に伝わり、平成の現代日本にまで浸透している。

あなたたちは時代を超えて勝利を収めたのだとオックスフォード伯エドワードに教えてあげたい。

……この「if」が、もしも本当の話なのだとしたらね。

「もうひとりのシェイクスピア」公式サイト

 


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・象のロケット

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