『少年H』そんなに「間違いだらけ」でもないかなと

少年H  

 

監督: 降旗康男

キャスト: 水谷豊、伊藤蘭、吉岡竜輝、花田優里音、小栗旬、早乙女太一、原田泰造、佐々木蔵之介、國村隼、岸部一徳、瀬川菊之丞、山中崇史、濱田岳、でんでん、安田裕己、井上肇、神保悟志

 

公開: 2013年8月10日

 

2014年8月17日。テレビ朝日系『日曜洋画劇場』地上波視聴。 ごく簡単な感想で。

この記事には特にネタバレ欄は設けません。

 

昨年、観に行こうかなと思いつつ、行けなかった1本。 自分的には右京さんじゃない水谷豊に興味があっただけという『HOME 愛しの座敷わらし』に続く好奇心。

 

原作は妹尾河童氏の大ヒット自伝小説『少年H』。

当方は未読なのですが、「間違えだらけ」と物議を醸していたのだけは知っている。

色々と…「当時の人がこんな風に考えてるわけないだろ」みたいな事や考証が間違いだらけだったこと。 それはまだ小説だから許せるとしても「その当時の日本人が知らないはずの歴史」を登場人物が予言してしまっていたらしい…それはマズイだろ。

 

映画化に当たって降旗康男監督と脚本の古沢良太さんはそういう点は細かく削除、訂正したらしい。おかげさまでか、見ていてそれほど「間違いだらけ」には感じなかった。

 

まぁ…タイムスリップしてきた子かよ…というセリフは数あれど、映画ですもの。平成目線を投影したのだと思えば許容範囲なのではないでしょうか。そんな作品は山ほどある。

 

…ということで、とりあえず、ここは原作のうんぬんは抜きで映画の感想。

 

昭和初期。妹尾肇は洋服職人の父と敬虔なキリスト教徒の母の間に生まれ育つ。 リベラルな思想の父の影響もあって思った事を口にしやりたい事をしてしまう性格で、周りの反感を買い、敵を作る事もしばしば。 父の仕事がテーラーであるゆえに、妹尾家には外人さんの知り合いが多かった。

時代は太平洋戦争に突入し、自由に生きてきた妹尾家の人々は抑圧された生活に精神的に追い詰められていく。

 

…といっても、暗く辛いことばかりが描かれているのではなく、その中で精一杯明るく生きようとする家族や子どもたちが描かれる。

 

父は「言いたい事も言えないそんな世の中」で、気持ちを隠して生きぬく術を子どもたちに指導していくし、母は家の中ではグチグチいうけれども信仰は捨てず隣組の中で上手くやっていけるように努力する。

 

とても真っ直ぐな人たちなので、こんな時代じゃさぞかし生きにくいだろう…と同情する。 なのに…肇こと「H」は、すぐに言いたい事を口にしてしまう。ひと言もふた事も多すぎるので、見ていて時々イラッとする。

 

この時代にキリスト教徒の肩身が狭いという描写は、戦争映画では珍しいかも知れない。

 

クリスチャンが弾圧されていたと聞けば豊臣秀吉の時代から江戸時代あたりしか連想しない日本人はたぶん多い。 けれども「外人の宗教」と見なされていたキリスト教への風当たりはこの時代、当然強い。実際に投獄者も出ているし、その中で亡くなった教職者もいる。

 

劇中では「踏絵させられるのか?」と訊ねるHに父が「踏めばええんや」と信仰は心の中にあるものだと説明している。 抑圧された生活の中では虐めも起きやすいから、Hのような少年は当然標的にされる。

 

父の拷問シーンは痛くて辛かったな…。 右京さんを拷問する芹沢とか。 い…いや…イタミンじゃなくて良かったわ…イタミンだったら顔からしてもう恐すぎたかも。    少年H.png

 

人捜ししたら、あんたまでつまらん人間になってしまうよ。

 

「H」がどんなに世の中に不満を抱いても、父は正しい方へと考えを導いていく。

不満は募る。けれども、やらなくてはならないと思う事はきちんとやる正義感を持ち合わせた家族。

 

この時代にこんな考えの人間いるかよ…という目線で見るよりは、言いたい事が言えず、考えを統制され、右へ倣えを強いられる怖さを見る作品。

 

この戦争は一体なんやったんや!!!

 

終戦後、何事も無かったかのように時代に順応している大人たちを見て、叫ぶ「H」。

この辺も平成頭だと思われるところなのだろうけれども…平成の私たちの声を代弁しているのだと思うことにしよう。

 

戦争否定というよりも、これは「ノーと言えない日本人」に宛てた言葉のように聞こえたよ。

 

もっとも、私は、この順応しすぎるおじさんたちを何だかたくましいと思ってしまった。ズルさもたくましさの一種である。流されなければ生きていけない時もあるよね。

 

みんな何かしら抱えて生きている。別に悔しいとも悲しいとも思っていなかったわけではないだろう。軍事教育バリバリの教官だったくせに殴った教え子にすらヘーコラしている泰造でさえも…きっと芯から卑屈になったわけではない。

 

空襲の映像も焼け野原も素晴らしい広がりで、スクリーンで見たら迫力があっただろうな、と思えた。 ストーリー的にそれほどグッと来る部分は無かったけれども、生き延びた者はとりあえず、命を捨てずに生きていこうというメッセージは受け取れる。

多くの人たちがたくさんの事に耐えて生き抜いて繋いでくれた今を我々は大切にしなければならない。

生きていれば「何か」はあるんだ、きっと。

 

 

 

 

 

少年H@ぴあ映画生活

・象のロケット

★前田有一の超映画批評★  

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