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『ひとよ』過ちは謝らない

ひとよ

『ひとよ』感想

作品情報

監督・キャスト

監督: 白石和彌
キャスト: 佐藤健、鈴木亮平、松岡茉優、音尾琢真、筒井真理子、浅利陽介、韓英恵、MEGUMI、大悟、佐々木蔵之介、田中裕子

日本公開日

公開: 2019年11月08日

レビュー

☆☆☆

劇場観賞: 2019年9月30日(試写会)

 
白石監督は基本、性悪説でやっていってるのかなぁと思っていたので、今作は新鮮だった。三兄妹のキャストはピッタリはまっていて、そして何より母親役の田中裕子に笑わされたり泣かされたりするわけである。最強聖母。

白石和彌監督の過去作品を考えると、つい暗黒落ちやグログロを予想してしまうけれども……。

あらすじ

どしゃぶりの雨降る夜に、タクシー会社を営む稲村家の母・こはる(田中裕子)は、愛した夫を殺めた。それが、最愛の子どもたち三兄妹の幸せと信じて。そして、こはるは、15年後の再会を子どもたちに誓い、家を去った—。たった一晩で、その後の家族の運命をかえてしまった夜から、時は流れ、現在。次男・雄二(佐藤 健)、長男・大樹(鈴木亮平)、長女・園子(松岡茉優)の三兄妹は、事件の日から抱えたこころの傷を隠したまま、大人になった……(Filmarksより引用)

意外な清々しさ

白石和彌監督だからとサスペンス性を求めて観に行く方もいるかも知れないので、これは先に書いておくけれど、サスペンスではないです。

(予告などでも言われているのでネタバレではないと思うけれども)ある事情で子どもを残して家を出た母親が15年ぶりに帰って来る「母帰る」物語。崩壊しかけた家族を描いたホームドラマであり、ヒューマンストーリー。

生々しい描写もあるけれど、アソコやアソコを削れば地上波放送もOKかも知れない。(それは知らない)
 

家族が人を殺したら加害者の家族はどうなるのかという話は東野圭吾の『手紙』でも描かれたが、ここでもその傷が描かれる。

彼は生きていた方が良かったのか、死ぬべきだったのか。母の行動は正しかったのか。

あれは「事故」では通用しなかったのかしらね。

原作は舞台

観た後から知ったのだけれど、原作は桑原裕子作の戯曲で、劇団KAKUTAによって舞台化されているらしい。

今月の戯曲:桑原裕子『ひとよ』 | Performing Arts Network Japan
自らが主宰する劇団KAKUTAの結成15周年記念に書き下ろした新作。とある田舎町の自宅兼事務所で営まれている小さなタクシー会社が舞台。ある夜、経営者家族みんなの人生を変える大事件が起こる。母親は、15年後に必ず戻ると3人の子供たちに言い残して家を出る。そして約束の年、「ひとよ」の出来事によって、それぞれに訳ありの人生を...

言われてみればタイトルバック後の時間経過や、クライマックスの車のアレ(ネタバレ回避で変な文になっている(笑))などは舞台劇っぽいかも……(言われてみれば、だけど)。

しかし、観た感じでは映画やドラマにピッタリだと思われる内容だと思われたので、むしろどんな舞台なのか興味が出てきた。

2度試写会を見て…

実は9月30日にレビュア―試写会で観て、10月21日に一般試写会が当選して再び観に行った。

ラスト前の大変動きの激しい「とある」シーンは不要じゃないかと思っていたけれど、2度観て、あそこがあるから親子が本音を吐き出すことができたんだよな……と思い直す(レビュア―試写会の方は上映環境が悪くてセリフがよく聞き取れなかったせいもあるかも)。

一般試写会に当選しなかったら2度観る事はなかったかも知れないので良かったわ。いや、納得できない部分も2回見ると理解が深まる物だなと実感。

親子の物語

上にも書いたが、近年増え続けている親子・家族の物語である。

親子の思いは噛み合わず、聖母のような母は身勝手、長男は父のようになることを恐れ、次男はいくつになっても中二病で、末っ子はひたすら母を崇拝する。

どの家にもあり得そうな3人兄弟描写で微笑ましい。

苦味は少ないけれど、良作。

 

 


以下ネタバレ感想

 

「母さんは今、すごく誇らしいんだ!」

そう言い残して去って行ったんだよね。

子どもたちのために……と思って殺してあげたけれども、三人も子供を作った夫婦。夫に対する愛はあった。

けれども子どもの未来を奪う父親は殺してしまわなければならなかった。「誇り」だと思わなければやっていられない……。

「ひとよ」の意味

「お母さんは正しかった。お母さんは謝らない。そうじゃないと全部ウソになってしまう。」

子どもたちは母のせいで夢が叶わなかったと責める。

しかし、こはるは子どもたちの人生の障害を取り除いたつもりだった。

後は……世間から虐められようと誹られようと、それをはねのけて夢を叶えると思っていたんだよね、たぶん。

 
「あの夜は何だったんだ。」

と、地面に転がりながら嘆く堂下に こはるは言う。

「ただの夜ですよ。」

「他の人にとっては有り触れた夜。
でも自分にとっては特別な夜。」

「それでいいじゃない。」

子どものために夫を殺した夜は こはるにとってだけ特別な「ひと夜」だった。

子どもたちにとっては迷惑な「ひと夜」だった。

この空回り感よ……。
 

人生にはそういう夜が往々にしてある。

それは余所から見たら滑稽なことであり、でも自分にとっては宝物なの。

 
この家族の再生を心から祈りたくなるラストで良かった。

このタクシー会社の未来も。
 

音尾さんが最高に良かったことは特記しておきたい。

 

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