『ふたつの名前を持つ少年』ワルシャワ・ゲットーからブオニェまで

ふたつの名前を持つ少年

~ LAUF JUNGE LAUF / RUN BOY RUN ~ 

  

監督: ペペ・ダンカート
キャスト: アンジェイ・トカチ、カミル・トカチ、ジャネット・ハイン、ライナー・ボック、エリザベス・デューダ、イテー・ティラン、ジニュー・ザマチョースキー、ルカッツ・ギャジス
公開: 2015年8月15日
2016年2月24日 DVD観賞

少年がポーランドのワルシャワ・ゲットーから脱走したのが1942年。その後、少年が渡り歩く土地ごとに年号が出る。早く、早く1945年になってくれ……と祈りながら見る。過酷なロードムービー。

◆あらすじ
8歳の少年スルリック(アンジェイ・トカチ、カミル・トカチ)は、ポーランドのユダヤ人強制居住区から脱走。森へと逃げ込むものの寒さと飢えに襲われてしまう彼だが、ヤンチック夫人に助けられる。聡明で愛嬌(あいきょう)のあるスルリックに魅了された夫人は、彼にポーランド人孤児のユレクだと名乗るように諭し、架空の身の上話を頭にたたき込む。夫人のもとを離れ、農村を回りながら寝床と食べ物を求めるスルリック。やがて心優しい一家と出会って安息を得るが、ユダヤ人であることがばれてしまう。(シネマトゥデイより引用)

 

原作はイスラエルの作家、ウーリー・オルレブによる児童文学『走れ、走って逃げろ!』

ということで、なるほど世界で一番過酷な「母をたずねて三千里」案件だぞ、こりゃ… と思っていたわけだが、実話ベースだったとは驚いた。

第二次世界大戦下、ナチスドイツに支配されたポーランド、ゲットー(ユダヤ人強制居住区)から逃げ出した孤児の逃亡劇。

温かい人の心に出会えば鬼のような輩に捕まり、また笑顔を取り戻しては美しい草原や森を楽しめない辛い出来事が起きる…。

どの程度、実話に沿っているのかは解らないが、少し楽しいことが起きればまた潰される、という緩急は解りやすく児童文学っぽい。

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少年が泣くシーンが何度かあり、正直あまり名演技とは言えないので「日本の子役ってすごいな」などと思っていたが、見ている方が泣かされるのは子役が泣くからでは無くて人の心の温かさに触れた時。

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偏見を超えて救いの手を差し伸べてくれる人々と、身を隠してくれる森、川、崖などの豊かな自然に救われる。

「2つの名前」の意味を知った時、この子に託された愛情と歴史の重みを感じる。

人間の強さと逞しさを堪能する作品。

 

ここから下ネタバレ観てない方は観てから読んでね 

    


 

腕はヒドイな…。

ユダヤ人じゃなければ失うことは無かった。

自分を助け、優しくしてくれた人が自分のせいで村ごと焼かれるのも切なすぎる。

「父さんと母さんの事は忘れてもいい。ユダヤ人であることだけは忘れるな。」
父の最期の言葉。

その後、少年は別の名前を持った。「スルリック」からポーランド人の名前「ユレク・スタニャク」へ。

1つの名前は父がくれた「ユダヤの子」として命を続ける名前。
1つの名前は愛情と保護をくれた人たちから貰った名前。

何もかも終わり、父の言葉を思い出し、少年はユダヤの子に戻る。

先日観た『サウルの息子』の時も意外に思ったのは窮地に陥った人たちが信仰を重要視しないこと。

ユダヤ人がユダヤ人たる理由であるユダヤ教の信仰だけは死んでも捨てないと思っていたので…。 

『サウルの息子』では、ユダヤ教に則って息子の埋葬を行いたいとラビを探し続ける主人公に仲間は「自分も明日死ぬかも知れないのに埋葬なんてどうでもいい」というのだ。

『ふたつの名前を持つ少年』では、少年は生き延びるために十字架を身に着けイエス像に祈りを捧げ聖体をいただく洗礼まで受ける。

もっとも、こっちの場合は子どもだから仕方ないわけだが、ホロコーストとは民族である信仰も誇りも捨て去りたくなるほどの地獄だったのだと改めて強く実感する。

何をされても誇り高く信念を通す人なんて架空の世界のヒーローだけだ。

少年が、とにかく生き延びようとする気持ちが、接する人たちにも勇気を与えた。
人間の本能は素晴らしい。

1962年。スルリックはイスラエルへ渡って30年ぶりに姉と再会した。

2人の子供と6人もの孫に恵まれて暮らしているという穏やかな海辺の映像に見入る。

腕を失っても、名前と未来は取り戻した。

『ふたつの名前を持つ少年』公式サイト

 

 

 


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・象のロケット

★前田有一の超映画批評★

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