『舟を編む』繋がりを編む人

舟を編む

      

監督: 石井裕也   
出演: 松田龍平、宮崎あおい、オダギリジョー、黒木華、渡辺美佐子、池脇千鶴、鶴見辰吾、宇野祥平、又吉直樹、波岡一喜、森岡龍、斎藤嘉樹、麻生久美子、伊佐山ひろ子、八千草薫、小林薫、加藤剛
公開: 2013年4月13日

2013年4月11日。劇場観賞(試写会)。

原作は2012年の本屋大賞を受賞した三浦しをん氏の同名小説。

「『右』という言葉を説明してください。」

と言われて、どう答えるか。
『左』の反対…では説明にならない。

辞書には小学生の頃からお世話になっているけれども、それが人の手によって作られているとは考えた事も無かった。
一語一語を説明する言葉も人の頭で考えられているとも思った事も無かった。

「舟」とは「言葉の海を渡り集めるもの」つまり辞書を意味している。
この言葉の海を渡る「大渡海」を編集する人たちの物語。

馬締光也はその名前通りに真面目な男である。真面目で言葉が少なく、人と上手く関われないが故に出版社の営業の仕事は向かなかった。
自分が定年退職する前に自分の代わりを探そうと考えた玄武書房辞書編集部の荒木がこんな馬締くんに目を付ける。細かい作業を淡々とこなす馬締は辞書の編集に向いているかに思われた。
しかし言葉を探し、編むためにはただ机上の作業をしているだけではいけないという事に彼は気づき始める。

辞書を1冊作り上げるのは気が遠くなるような作業だった。

「用例採取」という言葉集めから始まり、そのカードを選別して見出しを作り、語釈…つまり言葉の説明文を1語1語に付け、レイアウトし、校正する。

…と、書けば簡単そうだが言葉はそこら中に溢れている。1つの単語に対する解釈も1つではない。辞書に間違いがあるのは許されないから何度も何度も見直してチェックする。
その作業は10年、15年、20年に及ぶ。
一生をかける仕事だ。

現代語から古文、流行語、話し言葉、「言葉」全てを拾うという「大渡舟」にかける編集部の情熱と、その渦に飲みこまれていく馬締の情熱。
いつしか、馬締は舟の先頭に乗る人になり、舟を編むために自分自身を変えていく。

1つの辞書が出来上がる工程と、1人の男が変わっていく過程が気持ちよくリンクし、穏やかな音楽の中に浮かぶ優しい映画だった。

馬締を演じた松田龍平は、最近までドラマ「まほろ駅前番外地」でアウトローな役を見てきたばかり。
生真面目で不器用で人と接することを苦手とする繊細な青年役。とても良かった。こういうのも出来るんだなぁ…。

やっぱりここで書かなきゃならないのは西岡@オダジョでしょ。♥
こういう普通のチャラいサラリーマン役…見たのいつ以来だろう。

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チャラいんだけど…いい加減そうに見せているんだけど、いざとなったらやる男なの。頼れるの。カッコいいし可愛いの。ビジュアルもこういう普通の感じが好きなの。
これは、オダジョのファンは絶対に見るべき映画!!

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クスッとしてしまうユーモラスな部分もあり、ホロっとさせる情緒的な部分もあり、そして最高に盛り上がる仕上げ部分…。133分は時代の移り変わりとともに流れるように過ぎて行った。

一冊の辞書の完成も1人の人間の完成も、同じくらい人と関わり、人と繋がっている。

 


以下ネタバレ感想

 

最初はコツコツと「用例採取」のカードを整理する仕事に自分らしさを感じていた馬締が、自分よりも遥かに年長の松本先生がどんなに努力して「用例採取」を行っているのか知っていく過程が微笑ましい。

おじいさんの域にあるのに合コンにまで行っちゃう松本先生。引きこもっていては言葉は集まらない。より多くの人と接しなければと自分も外へ目が向き始める馬締くん。

辞書作りを一生の仕事にしたいと決心してからは、そのための努力を怠らない。
人間観察もした。優しい人と出会って恋もした。

15年は長い。
15年もあれば人も死ぬしペットも死ぬ。

言葉も15年もあれば変化する。
馬締が辞書編集部に異動した時に松本先生が採取した「チョベリバ」は、恐らく辞書に載る事はないだろう。
一体いつ作ったリストなんだ、とファッション用語をチェックして顔をしかめる新メンバーの岸部。

本当に大変な作業なんだ…と、しみじみ思う。

そうやってチェックにチェックを重ねて最後には大海からみんなで押して岸に辿り着く舟。
完成シーンでは、一緒に拍手したかった…。

一番見せたかった人は「大渡海」完成前に逝ってしまった。

完成パーティの会場の片隅に作られた松本先生の席。
そんなラストまで泣かされた。

そして、また次の航海へ…言葉が続く限り終りはないんだね。

・「舟を編む」公式サイト

 

 


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・象のロケット

★前田有一の超映画批評★

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