『さまよう刃』パパはまだ歩ける(2014年・韓国)

さまよう刃

~ 방황하는 칼날 / Broken ~ 

   

監督: イ・ジョンホ   
キャスト: チョン・ジェヨン、イ・ソンミン、ソ・ジェニョン、イ・ジェスン、キム・ジヒョク、チェ・サンクウ、イ・スビン、キム・デミョン、チョン・ソギョン
公開: 2014年9月6日

2015年5月5日。DVD観賞

 2009年に公開された益子昌一監督の日本版は劇場で観ている。東野圭吾氏の原作はその前に既読。

だいぶ前の話だから記憶は定かではないが、自分的には原作と引き比べて軽く感じた日本版。韓国で映画化されると聞いた時は、この題材は韓国映画の方が合っているかも…とは思っていた。

しかし、すでに結末まで解っている話だし…と、それほど心が動かなかったものの、見てみたらやはり凄い。見事に持っていかれた。原作を読んだ時に味わったどうしようもない怒りや虚しさや脱力感は韓国版の方が遥かに近い。

あらすじ
織物工場に勤務するごく普通のサラリーマンのサンヒョン(チョン・ジェヨン)は、数年前に妻をガンで亡くして以来娘のスジン(イ・スビン)を男手一つで育ててきた。残業ばかりの父親に対し娘は不満顔で、ある朝、不機嫌な顔のまま朝食も食べずに登校してしまう。その夜、土砂降りの雨の中サンヒョンが仕事から戻っても家にスジンの姿はなかった。(シネマトゥデイより引用)

ストーリーは「雨の日の子どものお迎え」「朝の親子喧嘩」「保身ばかりの警察」など韓国映画らしさを散りばめながら、大よそ原作通りに進んでいく。

自分も原作を読んでからもうずいぶん経っているから、始めの内は見ながら時々「あれ、こんな設定あったっけ」と思ったりしていた。

そういう事が全く気にならなくなってからはもう…どっぷりとサンヒョンの気持ちに浸って見た。元より韓国映画では名作だらけの復讐ネタである。この作品も名作の1本に間違いなく加わったと思う。

何が凄いって、娘を失った親の気持ちが深い怒りになって、吐き出せない重りになって、どうしようもなくこの父を動かしているのだという事が見ていて解る。

緊張をぶった切る余計なエピは無く、警察の捜査シーンを主体に置きながらもサンヒョンの動きがちゃんと伝わってくる。

父のその怒りを悲しみを、寒々とした美しい雪景色を背景に熱演したチョン・ジェヨンが本当に素晴らしい。

緊張の持続から頂点のクライマックスから、「その後」の解決を描くラストシーンまで目が離せなかった。

そう。綺麗ごとかも知れないが…チャン刑事なりにサンヒョンとの約束は果たさなければならないのだから。同じ悲劇を繰り返さないように。

 

ここから下ネタバレ観てない方は観てから読んでね 

    


 

あの部屋で動画を見てしまって、沸き上がる怒りを抑えきれずに少年を撲殺してしまった…その描写があまりにも辛くて痛々しくて絶望的だったから…。

「許してください。タブレットを盗んだのは俺じゃありません」

ヤツにとっては、そっちの犯罪の方が大きな事だった。

ああ…あんな風に殺してしまったら、そりゃもう1人も探すだろうと。探して復讐するだろうと納得できてしまった。

大きな処罰は受けないと解っているから犯罪を繰り返す。元より彼らは狡猾な鬼畜だ。

犯罪者が心療内科に通ってるからってそれが何なのよ、と思う。取調べが厳しかったからうつ病になったって…それが社会的な問題になるとはどこまで甘いんだ。

自分の子どもが…「まさか」と思い、庇いたいのはどの国の親もたぶん同じ。そして、子どもを殺された親に残りの人生なんてないのも同じ…。

ロッジの外でスジンと会話するサンヒョンの憑りつかれたような姿に泣く。

大丈夫。パパはまだ歩ける。

射殺されたあと、スジンと2人で一緒に雨の中を歩くシーンの穏やかさが、死ななきゃ穏やかになれなかったこの男の不憫さを思わせてまた辛い。

韓国版には丹沢に相当する人物が居なかったので、わざと射殺されたような描写は映画の日本版と同じということになるか…。

けれども、ラストに差し挟まれたこのワンシーンが寂しさと虚しさをより引き出す事になるのだった。

う~ん…やっぱり、題材が世相と合っていただけではなく演出の勝利。沈み込む負の情熱の深さあっての名作。

『さまよう刃』公式サイト

 


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・象のロケット

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