『永遠の0』語り継ぐ物語

永遠の0

      

監督: 山崎貴   
出演: 岡田准一、三浦春馬、夏八木勲、井上真央、濱田岳、新井浩文、染谷将太、三浦貴大、上田竜也、吹石一恵、田中泯、山本學、風吹ジュン、平幹二朗、橋爪功
公開: 2013年12月21日

2013年12月25日。劇場観賞。

原作は百田尚樹氏による同名小説。未読。
ですから、以下の感想は映画の印象のみの物です。ご了解ください。

司法浪人の佐伯健太郎は、祖母・松乃が亡くなった事を切っ掛けに祖父・賢一郎と母は血の繋がりが無かったという事を知る。祖母は祖父とは再婚であり、母は前夫との子供だった。
本当の祖父は宮部久蔵という男で、太平洋戦争の際に特攻で戦死した海軍航空兵だった、と知った健太郎は姉の慶子と共に宮部の足跡を辿り始める。

「凄腕のゼロ戦乗りだったのに、死を恐れて前線から逃げていた卑怯者」と評される宮部久蔵が、なぜ特攻に行く事になったのか。

「どんな男なのか」から「なぜ逃げていたのか」、そして「なぜ特攻に行ったのか」までを宮部と戦地で関わった人たちを探し、話を聞きつつ真相を追っていくミステリー的な部分の2004年と宮部に纏わるエピソードと共に当時の世相や戦争の実体を伝えるエピソードを織り込んでいくストーリー。

実話ベースではないし、終盤はこの監督の特徴であるこれでもかこれでもかと重ねていく演出にちょっと「またか」とは思ったものの、やはり釣られて泣いてしまう自分がいた。

決してプロパガンダに凝り固まった作品ではなく、観た人間が受け止めて自分の中で噛み砕いて考えることができる内容になっている。

ストーリーについては色々とあるけれども…とりあえず、それは下のネタバレ欄の方で。

役者さんの演技が素晴らしく、それだけでも感動してしまう。

実は、前日にBSで「木更津キャッツアイ 日本シリーズ」を見てしまったので、しまった…と思ったのだが、岡田准一の演技の幅は素晴らしく、全く心配する必要が無かった。
つまり…宮部久蔵は、どこも「ぶっさん」では無かった。
  

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「何としても生きて帰ろう」という強い意志ゆえに「逃げている」ようにも見える怯えた表情、部下に対する頼りがいのある落ち着いた眼差し、夫として父親としての優しい表情。終盤の憔悴しきった雰囲気…。この作品の中だけでも岡田の色々な顔を見る事が出来た。

濱田岳、新井浩文、染谷将太などの安定した演技も素晴らしかった…けれども、やはり戦地から帰ってきて2004年を生きている老人を演じる役者さんたちに泣かされた。

中でも田中泯さんの眼力は、いつもながら素晴らしい…。もう、泯さんだけでも見る価値がある映画。
  

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終盤の方は本当にストーリーと共にファンタジックに処理されているので、その中で説得力を持たせるのはやはり映像と演技なのである。
田中泯さん、山本學さん、橋爪功さん、そして、夏八木勲さんの存在感がこの作品を作り上げていると言っても過言ではない。

観ている間に何度も泣かされたけれども、実はもう人目が無かったら号泣しそうなほど胸に来たのはエンドロールの「memory of 夏八木勲」だったりする…。
今年の5月に未公開映画5本を残して亡くなった夏八木勲さん。
これが、恐らくその最後の1本になるのかな。

最後の方の作品は、遺作になったドラマ『ゴーイング マイホーム』を含め、過去に傷を持つ人の役が多かった気がする。
この作品でも夏八木勲さんならではの強く優しい人を演じておられた。
    

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そんな事も含めて…時代は変わっていくんだな…と思わされた1本だった。

「私たちの世代はあと10年もすればいなくなる。だから伝えなくては。」という橋爪功さん演じる井崎の言葉。

この映画で戦争の恐ろしさが伝わったかなぁ…とは思うけれども…少なくとも考える切っ掛けは与えてくれる。

まずは考えることが大切なのだから。そうい意味では、見る価値のある作品。
少なくとも、綺麗ごとばかりで構成されているような戦争映画では無かった。良作。

ここから下ネタバレ観てない方は観てから読んでね 


日本全体が戦闘態勢に染まっている中で「戦は嫌じゃ」で生き延びようとしている宮部久蔵は、あり得ないと見る向きもあるかも知れないけれども変わり種として居てもおかしくない存在ではある。

それに、表向きは家族のために生きて帰りたいという設定であるけれども、セリフなどから考えると上が押し立てている作戦の無謀さを冷静に観察している人であり、決して「戦は嫌じゃ」という考えで逃げているわけではないように思える。

つまり、勝てるわけがない無謀な作戦に参加したくないけれども、言い出せる空気じゃないから仕方なく見ている…という人のようだった。

世相に反論して生きていくのは勇気がいることであり、決して臆病だとは言えない。
それに気づくから慕ってついて行く部下もできるわけである。

結果、宮部によって生かされた命たちが2004年に決して彼の事を忘れることなく生きている事に違和感はない。

ただ、何だか賢一郎が気の毒に思えてならなかったのは私だけ~ とは思うの。

例え死んでも帰ってくる……という言葉を宮部が自分に賢一郎を遣わしてくれたように受け取ったらしい松乃…。
戦地から帰り松乃と会った時から、賢一郎という人間は居なくなってしまったような気がする。それで賢一郎は幸せだったのかなぁ。

だったら、特攻になんか行かずに自分が助かれば良かったのに、という話だが、最後の方の宮部の形相から考えるに無意味な特攻で教え子たちが次々と亡くなっていくのを見て精神的におかしくなっていたようなのは明らか。

あれで生き延びて1人家族の元に帰っても、たぶん宮部に安らかに眠れる日は来ないだろう。

だから賢一郎を生かして自分が行ったのは、宮部が本当に「逃げた」決断だったようにも思えてしまうのだ。

それが教え子を1人救ったという英断なのか逃げなのかは受け取り方次第なのかも知れないけれども。

そういう思いを背負いながらも必ず特攻を成功させるという覚悟で飛ぶラストの表情は清々しく美しかった。

先入観が出来ると観ていて良くないだろうからと思って上には書かなかったけれども、映像はさすが山崎貴監督という素晴らしさ。
だが、戦闘シーンは想像していた迫力には欠けていた気がする。

戦争映画は、もっともっと、これでもかというくらいに残酷に描いて何ぼだと私は思うのだ。恐いと思うくらいじゃなければ、二度と戦争を起こしたくないと現代に伝えられないから。

だから、見やすいエンターテイメント作品として誰にでも薦められるといえばその通りで…。

あんな思想で塗り固められた時代を経て、自由な思想が許される今があるのだという事は伝わるだろうと信じている。

あのコンパに来ていた「特攻はテロ」の若者たちにも伝わるかどうかは解らないけれども。

「永遠の0」公式サイト

 

 

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