『ヒミズ』「病気」を自覚する園子温監督作品

ヒミズ

監督: 園子温   
出演: 染谷将太、二階堂ふみ、渡辺哲、吹越満、神楽坂恵、光石研、渡辺真起子、黒沢あすか、でんでん、村上淳、窪塚洋介、吉高由里子、西島隆弘、鈴木杏
公開: 2012年1月

   

第68回ヴェネチア国際映画祭 最優秀新人俳優賞受賞作

牛乳の中にいる蠅 その白黒はよくわかる

みながみな同じであればよくわかる
働き者か怠け者かわかる

何だってわかる 自分のこと以外なら

「ヒミズ」は、手のひらサイズのモグラの一種らしい。
名前の由来は「日見ず」を意味する。土の中にいるから日を見ることが出来ない。

実際の「ヒミズ」はモグラだから日を求めてはいないだろうが、物語の中の少年たちは、日を求めてあがき続ける。彼らから日を奪ったのは「親」という名の大人。

親だけではなくて、もう本当に死んでしまえばいいのに、と思うような大人がいっぱい出てくる。
強い者が弱き者を虐げる構図は園子温監督の作品のベースにあるけれども、弱き者が中学生だという設定はエログロ描写が無くても心が痛い。

バイオレンス描写はあるものの、他の園子温監督作品に比べるとソフトに出来ていると思った。どうしようもない「どん底感」だけではなく、希望が見える優しいラストだった。

親と子の問題…というよりも、問題外な親たち。しっかり立派に生きて行こうとする若者を阻む大人の身勝手さにムカムカする。でも、助けてくれようとする人たちもいる。

頑張ろうとする人間には見守ってくれる目もあるという設定は救われる。

園子温監督の作品には、いつも「病んでる」と思われる人たちがたくさん出てくる。もっとも、何が人間が「病んでる」基準なのかと言われれば解らないけれども。
痛い人たちが繰り広げる悪夢。…しかし、他のどの作品にも登場人物に向けられる「病気」だという言葉は出てきていないような気がする。

この作品には、主人公に向けられて「病気だ」という言葉が2回も出てくる。それも、他の作品とは、ちょっと違うなと思った所。
「病気だ」と言ってくれる人がいる映画。それも救いなのかも知れない。

「冷たい熱帯魚」出演の方々などお馴染みの役者さんが数多く出てくるのは、ちょっと面白かった。「愛のむきだし」で主演した西島隆弘や、「紀子の食卓」デビューの吉高由里子ちゃんが、ほんのチョイ役で出てきたのも嬉しい。

窪塚洋介は、「源氏物語」の安倍晴明よりも、やっぱりこっちの方が全然いいでも、あの人、どうなっちゃったんだろう…いや、それはネタバレ欄で…。

ヴェネチア国際映画祭で最優秀新人俳優賞を受賞した染谷将太二階堂ふみの感情…というよりも命むきだしの演技にも注目。「熱海の捜査官」ファンとしては、この2人の受賞は嬉しいこと

痛いけど、優しい。鬱々とするけれども、考えさせられる。凄い映画だった。

ここから下ネタバレ観てない方は観てから読んでね 


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父親を殺して「普通」じゃなくなった主人公・住田。
一体、「何が普通なんだ」と言われれば、普通なんてないのかも知れない。仲良さそうに暮らしている家族だって「紀子の食卓」みたいなことになっているのかも知れないし、親がいてもいなくても、孤独な心は埋まらない。

しかし、親が両方とも出て行って、父親は多額の借金をして、家に暴力団の取り立てが来て…そして、父親を殺す。

茶沢のいうとおり「もう普通じゃないよね!」の状態だ。

自殺する前に命を世の中の役に立てようと、包丁を持って街をうろつくシーン。中二病っぽいけど、実際に中学生なのだから仕方ない。

ここから、バスの中のシーンや金子ローンのシーンなど、住田の妄想世界が組み込まれるので、どこまで本当なのか少し混乱する。
これが「病気」なのだ。「お前は今、病気なんだ」と言ってくれるのが、あんたに言われたくないよ、と思う金子ローンの社長なのだから、これもまた凄い。
あれだけ殴っておいて、結局、住田から包丁を取り上げたのが彼なのだから、案外良い人なのね、とか…登場人物にそんな意外性もある。

住田が一生懸命生きてきた事を知っているからこそ、味方してくれた被災者の人たち。

住田、がんばれ!住田、がんばれ!

叫び続ける茶沢も愛おしい存在。

この子だって…言っていたような未来が来るかどうか解らない子なのに。

「お前が本当……に、要らない」

親からそんな風に言われ続ける子供の気持ち。どん底の沼の中で必死にもがく。

それでも、生きていけ。

作品全体が全身でそう語っている。

それはきっと…とても辛い事なのかもしれないけれども。

※ところで…
本当に、窪塚くんが演じていたスリ男は、あの時どうなったんだろう…
どうでも良いけど、ちょっと気になる。
夜野さんには、人殺しになってほしくないんだよ。

・ヒミズ 公式サイト

  

 

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