映画@見取り八段

自己満足映画批評ブログです。邦画・洋画などジャンル問わず観賞。劇場上映中作品のネタバレ感想は別枠で表記。ランキングは年末総評価まとめで。

『サラの鍵』ヴェル・ディブ事件の爪痕を開く鍵

サラの鍵
~ ELLE S'APPELAIT SARAH ~



監督: ジル・パケ=ブランネール   
出演: クリスティン・スコット・トーマス、メリュジーヌ・マヤンス、ニエル・アレストリュプ、フレデリック・ピエロ、エイダン・クイン
公開: 2011年12月


   

年明け1本目の劇場鑑賞。

昨年、カーラジオで偶然この映画の話を聞いてから、ずっと観たいと思ってた。やっとウチの県でも上映されました。


ストーリーは、1942年、ナチス占領下のパリから始まる。
ある朝、弟・ミシェルと無邪気に遊んでいた10歳のサラのアパートに警察が踏み込んでくる。ユダヤ人家族だったサラは父母と共に連れ出され、そのままヴェル・ディヴ(ヴェロドローム・ディヴェール・冬期競輪場)に移送された。いわゆる「ヴェル・ディブ事件」の被害者である。

ただならぬ空気を感じたサラは、検挙される直前に弟を納戸に閉じ込め、鍵をかける。「かくれんぼよ」と言い残して…。
10歳のサラには、連れ去られた後、何が待っているかその時は知る由もなかった。
もう、家に戻れないと知ったサラの手の中に、弟を閉じ込めた納戸の黒い鍵が握りしめられる。

時代は変わって、60年後のパリ。ジャーナリストのジュリアは夫の両親から譲り受けたアパートに引っ越そうとしていた。



第二次世界大戦時、フランス人が自らの手でフランスに住むユダヤ人1万3000人を大量検挙し、400人しか生き残らなかったという事実は、フランスの歴史の大きな汚点になっている。

私も、昨年公開された「黄色い星の子供たち」を見るまでは知らなかったことです。自分の無知が恥ずかしい。

アウシュビッツに関する本や映画はいくつも見てきたが、見るたびに胸が痛い。
なぜ、人種や宗教の違いは差別や迫害を起こすのだろう。目の色や言葉が違っても、赤い血が流れる同じ人間なのに。

劇中で、サラは何度も「弟が」「鍵を」と口走る。
サラは、弟との「約束」を守る事だけを考え、走る。高熱で倒れている時でさえ、彼女の心はずっと走り続けているのだ。弟を閉じ込めたパリという真っ暗な納戸に向かって。


「サラの鍵」は、サラにとっては弟を救い出す鍵。ジュリアにとっては、ヴェルディヴ事件を開き、自分と向き合う鍵だった。

ジュリアが、夫のアパートと自分の仕事である「フランス人のユダヤ人迫害」の記事に関連がある事に気づいて取材していく現代シーンと、サラが主人公の1942年のシーンとの切り替えが違和感なく素晴らしい。

まるで、過去が現代のすぐ隣に存在するようだ。

展開は読めるが、実際に目にする物は予想以上の悲しみと衝撃。
特にラストは「きっとこうなる」と解っていても、実際にセリフを耳にした途端に涙が溢れて止まらなかった。

この部分だけは、歴史に対する救い…。とてつもなく悲しいのに、妙に温かい余韻が残る。


こういう映画は、「観た方が良い映画」ではなくて「知らなくてはならない映画」だと思う。
黒い歴史に鍵をかけてしまったら、同じことを繰り返すのが人間なのだから。

 

ここから下ネタバレ観てない方は観てから読んでね 


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長い間、弟を閉じ込めた納戸が開くシーン。
その描写は一切ないが、中にどんなものがあるのかは、たやすく想像がつく。

「ごめんなさい!ごめんなさい!」と叫び続けるサラを抱きしめてくれる存在が、作品中にちゃんと居てくれたのが救いだ。

ヴェル・ディヴで高熱を出したサラは、もしかしたらあの場で死んでしまっていてもおかしくなかったのかも知れない。しかし、サラは生き続けた。恐らく「約束」が彼女を生かし続けたのだろう。

「約束」が終わった日から彼女は変わった、とデュフォール夫妻は思う。サラは、野性的で冷たくなったと。

たった10歳のサラが、事件の全てを受け止めて生きていくためには強くならなければならなかっただろう。
結婚の知らせが届いたという話は、正直ちょっと意外であり、とても嬉しくもあった。

しかし、結婚も出産も彼女の傷を癒し続ける事は出来なかったという事実が、また悲しい。

遺児は母の死の真相も、自分にユダヤ人の血が通っている事も知らずに育ち、ジュリアの取材で初めて真実を知る。
初めは真実を受け止められなかった、というのも当然であり、彼にも同情する。

戦争の爪痕は、時代が変わっても深く残る。


ジュリアが子供を産む事に拘ったのは、長い間の不妊治療の末に奇跡が起きたから、だけとは思えない。
子どもが出来ると同時に起きた「サラという過去」との関わり。ジュリアは子供を殺したくなかった。だって、死んでもいいはずない命がたくさん失われたのだから…。

取材中、ヴェル・ディブの目の前に住んでいたという女性は、「何か感じなかったのか」という質問に

私にどうしろと?
現代ならば理解できるけれども、あの頃はユダヤ人に対する悪い話ばかりが流されていた。


と、答える。

悪いと思い込んで憎んでいた物が、時代が変わって「悪くなかった」と言われても…、というその気持ち。その後悔を味わないためにも、大衆心理に惑わされてはいけないんだよね。
ネットを見ていて、この現代でも日々思っている事。

こういう群衆心理の集まりが大きな不満になって悲劇を呼ぶ。
人間はあの頃と今と何も変わっちゃいないのだ。


ジュリアの子供の名前を聞いて、泣き崩れるウィリアム。

「ありがとう」

この人たちが、皆、癒される日が来ますように。
サラの魂が癒される日が来ますように。


・サラの鍵 公式サイト

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