『シシリアン・ゴースト・ストーリー』事件などない

シシリアン・ゴースト・ストーリー

原題 : ~ Sicilian Ghost Story ~
『シシリアン・ゴースト・ストーリー』感想

作品情報

監督・キャスト

監督: アントニオ・ピアッツァ、ファビオ・グラッサドニア
キャスト: ユリア・イェドリコヴスカ、ガエターノ・フェルナンデス、ヴィンチェンツォ・アマート、ザビーネ・ティモテオ

日本公開日

公開: 2018年12月22日

レビュー

☆☆☆☆

劇場観賞: 2018年12月26日

 
1993年シチリアでのマフィアによる少年誘拐事件をモチーフにした作品。

あんな映像初めて見た。何の罪もない少年がなぜあんな物にならなくてはいけないのか。見ないふりの大人が何より恐い。

あらすじ

美しい自然の残るシチリアの小さな村に住む13歳のルナは同級生のジュゼッペに思いを寄せていた。2人の仲が深まろうとする矢先に、ジュゼッペは突然姿を消してしまう。なぜか周囲の大人たちが口をつぐむなか、ルナは懸命に彼の行方と失踪事件の真相を追うのだったがー。(Filmarksより引用)

ジュゼッペ・ディ・マッテオ少年誘拐監禁事件

シチリアはマフィアを生みましたが、それを踏圧するために北の方からいろいろな人が送られたのですが、みんな殺されていて。それに加担したマフィアの一人が、この映画の主人公・ジュゼッペの父親のボスだったということです。ジュゼッペの父が警察に捕まり、司法取引がされるのですが、仲間たちの情報を流す代わりに刑を減軽してもらうという取引をしていました。その警察に捕まったジュゼッペの父を黙らせるために、息子を誘拐したということなんです。(公式サイト「徹底解説」)

「少年が誘拐される」というところはネタバレではないと思うので、とりあえず公式から引用。

自分は何も読まず何の前情報もなく観に行って分からない点もあったので、知っていた方が入り込めたかも知れない、と思われる部分だけ記載しておきます。

映画本編では意外と説明は少なく、「突然居なくなった恋人と、沈黙する周囲の大人たちに違和感を持ち続けるヒロイン」と同じくらい観客もワケ分らない状態で観ることになるので。

しかし小さな恋の物語なのです

実話ベースである限り起きることは止められないので、サスペンスでもミステリーでもなく、では何なのかというと、この映画は純然たるヒロイン・ルナ目線の恋物語なのだった。

触れあえた時間はあまりにも短く、壮大な時間の経過は恋人探しの長い夢。

ルナがオタオタと泣き崩れるキャラではなく、真実を追い求める姿勢が強くたくましい。それが救いでもあり、痛々しくもある。
 『シシリアン・ゴースト・ストーリー』感想

幻想の世界は美しくも甘くもなく、現実とほぼ同じリアリティを持って描かれる。

まるで、幻想ではなくて予言のよう。
 

そして、あの終盤のシーンを迎える……。

沈黙は金なのか

臭い物には蓋をし、危険が及ばないように口をふさぐ……。

そういう大人たちの存在が子どもの未来を失くす。

監督はこんなことが風化しないようにと、この作品を作ったのだという。

その思いが伝わるといい。

 

シチリアだけではなく、大人の犠牲となる全ての子どものために。

 


以下ネタバレ感想

 

ジュゼッペを探しているのがルナ1人だという孤独。

たぶん、じいさんはあきらめていて、母親は泣くばかり。

警察は実際、動いていたのか、警察すらもマフィアの傀儡なのか、よく分らない。(一応、事件上では「「父に会わせてあげる」と警官を装って誘拐した」らしいけれども、警察の中にも手先は居そうだし……)

学校の先生始め周囲の大人もみんな見て見ぬふり。

 

「探していない」方が当たり前になり、「探している」方が頭おかしいような扱い。なぜこんな理不尽が許されるのか。

 

水に沈むシーンが多い事は、ラストのあのシーンへの繋がりなのだと考えると、ただ恐い。

ファンタジー的には美しい雪のようにすら見える映像だったけれども、肉片ですよね……。(事実では硝酸に投げ込まれて溶かされたのだとか)。

傷ひとつない綺麗なジュゼッペが、死んでいくジュゼッペを見下ろすシーンが切なかった。

ようやく、自由になれたんだね。
『シシリアン・ゴースト・ストーリー』感想

余談ですが、この映画を観る前日に試写会で来年公開の『マチルド、翼を広げ』を観まして。

ストーリー的には全く違うのだけれど、符号する部分が大きくて、ちょっと驚いた。

フクロウ、幻想、ちょっと欠けた母と優しさを装った事なかれ父……。

観る機会のある方はぜひ。

 

救いのないこの世界で、救われたのはジュゼッペは死んで自由になれたのだという幻想だけ。

せめてルナが生きていて、ジュゼッペをずっと忘れずにいる……その事実だけ。

 

可哀想。

本当に可哀想だとしか言えない。

 

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