『グランド・ブダペスト・ホテル』ピンクの箱庭とモノクロの現実

グランド・ブダペスト・ホテル~ THE GRAND BUDAPEST HOTEL ~

   

監督: ウェス・アンダーソン   
出演: レイフ・ファインズ、トニー・レヴォロリ、ジュード・ロウ、ビル・マーレイ、F・マーレイ・エイブラハム、マチュー・アマルリック、エイドリアン・ブロディ、ウィレム・デフォー、ジェフ・ゴールドブラム、ハーヴェイ・カイテル、エドワード・ノートン、シアーシャ・ローナン、ジェイソン・シュワルツマン、レア・セドゥー、ティルダ・スウィントン、トム・ウィルキンソン、オーウェン・ウィルソン
公開: 2014年6月6日

2014年6月9日。劇場観賞。

もう…なんて可愛くて素敵なんだろう。まるでオシャレな高級お菓子の箱のようだ。この映画ごと食べてしまいたい。この世界に入り込みたい~………??

…という世界観。

可愛くて楽しい…箱の中は結構毒々しくて痛々しい。
そういう部分も含めて愛おしい映画。

ストーリーはサスペンス仕立てになってはいるけれども特に緻密に作られているわけではなく、ストーリーよりはお菓子のお家の中でアタフタと駆けずり回るオモチャたちを見るようにブラックな童話を楽しめばいい。
 

ブダペストはハンガリーの首都…だけれども、この物語の舞台はズブロフカ共和国という「ヨーロッパの東にある」架空の国。

1698年。ある若い作家が、今はすっかり昔の面影を失くして古く寂しくなったグランド・ブダペスト・ホテルを訪れる。
そこでオーナーであるミスター・ゼロ・モスタファと出会った作家は、グランド・ブダペスト・ホテルのかつての栄華と、オーナー・モスタファの師であり友人である伝説のコンシェルジュ、ムッシュ・グスタフ.Hの話を聞くのだった。

1932年。若きゼロはホテルのベルボーイ。ホテルは栄え、ムッシュ・グスタフ.Hは多くのお客たちから愛されていた。
ある日、ムッシュ・グスタフはいつものようにお客であるマダム.Dの夜のお相手を務めてお別れをする。そして、後日、彼女の死を知らされる。
ゼロを伴ってマダム.Dの城に弔問に訪れたムッシュ・グスタフは事件に巻き込まれることになる。

完璧にデザインされた箱庭の中でバタバタと起こる事件をワクワクしながら見ている間に時間は過ぎる。
物語は奇想天外。アニメのようにすら見える世界の中で実写の人間たちが動き回るシュールなドラマ。

個人的には、その中でレイフ・ファインズが駆け回っているだけで楽しいのである。。何てカッコ良くて可愛くて黒くて痛々しいんだろう。
   『グランド・ブダペスト・ホテル』感想

1698年と現代パートのホテルを楽しむ作家のジュード。1932年を引っ掻き回すエイドリアン・ブロディ。

好きな人を閉じ込めておける絵画を手に入れたような喜び。
この作品はそんな可愛い額縁。

そんな理由でウェス・アンダーソン監督の『ムーンライズ・キングダム』よりも『ダージリン急行』よりも、私はこの映画が好きだ。

1つ1つのシーンがパラパラと自分の思い出のように刻まれる。
ロシア民謡のようなあの音楽がグルグル頭を回る。

自分自身があそこにずっと滞在して物語を見ていたように、甘く切なく思い出す。

あのモノクロの世界までもね。
戦争はお菓子の世界からさえも色を奪う。

 


以下ネタバレ感想

 

 

マダム.Dの屋敷に向かった時に汽車は止められた。1932年。ヨーロッパは第一次世界大戦後。
その時はムッシュ・グスタフの威光でゼロは救われた。暴力は鼻血を出す程度で済み童話世界はそのまま進行する。

けれども、次に汽車が止められた時。
暴力と黒い権威はもうムッシュ・グスタフの威光など物ともしなかった。
ここで物語は色を失う。

物語は架空の世界だけれども、その外ではヨーロッパは大きな2つの戦争で暗く沈んでいる。
それが最後には物語に侵食してくる…それまでただ楽しかったから、その描写が本当に絶望的に寂しくて悲しい。

ムッシュ・グスタフの陰があちこちに見えるだろう箱の中で思い出に浸って生きているミスター・モスタファを思うと、それも無性に悲しかった。

これがあるから、この映画は甘くて楽しくて、そして切ない思い出になって焼きつく。
たぶんそれはモスタファと同化した気持ちなのだと思う。

「グランド・ブダペスト・ホテル」公式サイト


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・象のロケット

★前田有一の超映画批評★

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