『風立ちぬ』美しい飛行機と美しい夢

風立ちぬ

作品情報

監督・声優キャスト

監督: 宮崎駿
出演: 庵野秀明、瀧本美織、西島秀俊、西村雅彦、スティーブン・アルパート、風間杜夫、竹下景子、志田未来、國村隼、大竹しのぶ、野村萬斎

日本公開日

公開: 2013年7月20日

レビュー

☆☆☆

2013年7月4日。劇場観賞。(試写会)

 
2週間も前に試写会で見たのに、記事を書いているのは公開初日…。

見終わった時は感動したのだけれど…その正体はよく解らない。こうして日が経つほどにますますボンヤリする。とても、感想が書きにくくて放置していたのである。

それでも、宣伝番組などであの予告映像を見ると目が潤む。
「ひこうき雲」にやられるんだよね…。

あらすじ

主人公のモデルは堀越二郎。
堀越二郎は明治36年に生まれ東京帝国大学工学部航空学科を首席で卒業し、現在の三菱重工業に入社して戦闘機の設計を行った航空技術者である。
零式艦上戦闘機、いわゆる「ゼロ戦」の設計者として有名な人物だ。

この作品は、堀越二郎の子供時代から学生時代。ドイツへの留学時代。そして、妻となる里見菜穂子との出会いと短い結婚生活、というフィクション部分の半生を流れるように描いている。

日本文学的大人ジブリ

もちろん、ジブリ作品だから基本はファンタジーである。けれども、描かれている内容は主人公が実在の人物であるだけに現実的。

二郎の飛行機と空への憧れが、イタリアの有名な飛行機制作者であるカプローニと飛ぶ空想シーンで清々しく描かれる少年時代。

実は、この映画の中でカプローニとのシーンが一番好き。

ファンタジー色溢れたこのシーンは、ある意味、一番ジブリ作品らしいシーンなのである。

つまり、私がジブリ作品に求めているものは、やはり「それ」なんだなぁ…。

トトロと空飛ぶメイとさつきのシーンの面影をこういう現実的な作品にもやはり求めてしまう。

まぁ…でも、それでいいんですよね。

だって本当に伝記を描くのならば他の人が実写で制作すればいいわけで、ファンタジーがあるから感動するわけなんだもの。

飛行機に一途。昔の出会いからの恋愛に一途な青年の物語。

その間に時代の波が次々と押し寄せる。

関東大震災描写の凄み

関東大震災と太平洋戦争はイメージ的にしか描かれないので見ていて辛いシーンはない。

こういう風に震災を表現できる力もまた宮崎監督ならでは、だと思う。

物つくり…特に飛行機に関わる方には、ワクワクするポイントも多いだろう。

向上心のある時代の日本の熱さと、静かに愛する人を見守る主人公の温かさに心動かされる。

ずっと風に乗っていくような気持ちで通り過ぎる作品だった。

大人向けの内容だが、小学生くらいのお子様でも関東大震災や太平洋戦争の事を補足的に説明してあげる事で充分見れる内容だろう。

今は理解できなくても、大人になってから思い出して理解する…そういう事があるのが芸術なのだから…「とりあえず」見せてあげるという感覚でもいいのかも。

楽曲「ひこうき雲」

ラストからEDのユーミン「ひこうき雲」に泣いた。

「ひこうき雲」という歌自体が、若くして亡くなった人を思ってユーミンが書いた歌だから…もう、この映画の内容には用意されたようにピッタリなのである。

激動の時代を美しい夢を持って理想と仕事のために生き抜いた熱い物語でもあり…

激動の時代の中でひっそりと咲いた悲恋の物語でもある。

どんな風の中でも「生きる」ことを訴える描き方は宮崎駿ならではの物だと思った。

声優について

話題になっている声優さんについては、あまり色々と書きたくありませんが、個人的には甚だしく興を削がれた…と言っておきます。声の質がどうとかいう問題ではなく(それもあるけど)演技の問題だ。

これに慣れるのにすっっっごく時間がかかった。本当に残念。

素朴な声を何たらという監督の話は聞いたし、声優の声は気持ち悪い論争も見たけれども、やはり声優さんは上手いんだよ。何をそんなに拘っているのか知らないけれども、そこを避け続けるのはもう意固地だとしか思えない。

しかも、今回はアニメオタクからも文句言われなそうな人材の抜擢。…もうあざといとしか思えない。

 
ヒロインの瀧本美織ちゃんは驚くほど良かった島本須美さんを思い起こす透明感のあるお姫様声。

ここは、監督がぜひにと思ったのが理解できるキャスティングだった。

 
ここから下ネタバレ観てない方は観てから読んでね

 


以下ネタバレ感想

 

126分…2時間越えの作品だけれども、人の半生をファンタジーも交えてあれもこれも描くので、それこそ大風のように通り過ぎた印象…。

ゆえに自分の頭の中ではリアルな実生活っぽいシーンよりもカプローニのシーンの方が強く残ってしまっているんだろうな~と思う。
この映画のイメージとしてインプットしやすいからだ。

二郎の少年時代に現れるカプローニは若々しく情熱的で仕事に燃えている。美しい飛行機について少年に朗々と説明し飛行機の上を闊歩する。

しかし、ラストに現れるカプローニは飛行機に家族をたくさん乗せ、仕事よりも家族という落ち着ける温かい存在の大切さを語っている。

これらはいわば二郎の妄想シーンなのだから、二郎自身の気持ちの変化を表している。
そして、時代も。

混沌とした争いと貧困と災害の時代から、戦争が無く安泰した時代へ。

もちろん、現代でも災害も貧困もあり、いつもどこかで誰かが亡くなっている。
その人たちの生涯もみんな風なのだ。

私たちの周りにはいつも風が吹いていて、私たちはそれを感じて生きている。

通りすぎれば思い出し、そして思い出せば決心する。

「生きねば」

この作品の「生きねば」には『もののけ姫』「ナウシカ」で描かれたような戦って勝ち取る生は描かれない。

いつか「死」を迎え、風となって去るために今を精一杯生きる。

ちょっと「そこ」への憧れも感じさせる。

ここから感じ取るのは「そこ」を受け入れる強さ。
 

「風立ちぬ」公式サイト


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