『夢売るふたり』夢食う女

夢売るふたり

監督: 西川美和  

出演: 松たか子、阿部サダヲ、田中麗奈、鈴木砂羽、安藤玉恵、江原由夏、木村多江、伊勢谷友介、香川照之、笑福亭鶴瓶、やべきょうすけ、大堀こういち、倉科カナ、古館寛治、小林勝也
公開: 2012年9月8日

     

とても痛々しい人たちの映画だ。

夫婦は二人三脚のつもりで頑張ってきた。少なくとも妻はそのつもりだった。しかし、いつの間にか夫婦の歩みはズレていった。
握っていたつもりの手綱が外れた時から、何かがおかしくなっていく。

「ゆれる」「ディア・ドクター」西川美和監督・脚本作品。
前2作が大好きなので、今回も何か月も前から楽しみにしていた。

共通する所は、痛々しさかな…。
人間はみんな何処か痛々しくて、何か傷を持っていて、現実に満足できなくて、幸せを追い求めては、また落ちていく。 だから憎らしいし、だから愛おしい。

この主人公たちは、自分たちの夢を手にしたくて、他人の夢を買っているつもりで詐欺を始めて、結局は夢を売っていた。何も無くなったと気付いた時の女房の顔。

売る方も買う方も、万遍なく痛い人たちだ。

松たか子さんが健気で、でも恐くて、そして悲しい妻・里子を演じる表情がスゴイ。
楽しい時は笑い、悲しい時は泣き、怒る時は……その表情を口元に笑みを浮かべながら目の奥で演じていく。

里子に手綱取られて、気づいたらこんな事やってました…という感じの夫・貫也を阿部サダヲが、そのまんま普通に居そうな男のように演じる。

2人とも、何処にでもいる人、なんだよ。特別じゃない。
みんな、たぶん、夢を売って生きている。

そういう生き方をしなくて良い人、現状に幸せいっぱいで何の不満も傷もない人には理解できない作品かも知れない。

※キャストは豪華でそれぞれに痛い人を演じていて見応えありますが…みんな少しずつしか出演してません。 主演のお2人以外のキャスト狙いでの観賞は止めた方が良いかも。

 

ここから下ネタバレ観てない方は観てから読んでね 

    


一番最初に自分たちの店で働いている時から、貫也は里子の目線一つ一つを確認しながら行動している。
お客さんに次に何を出すか、どう飲ませるか、売り上げを稼ぐか。
それが里子の貫也に対する愛であり、夫婦の形だった。ちょっと、過干渉な母親に似ている。

里子がちょっと目を離した隙に起こった火事。
夫婦の形は一時崩れて、貫也はどうして良いか解らなくなる。

そして里子が目を離した隙に起きた貫也の過ちを里子は2人の夢を叶える道具として利用する事を考える。
新しい手綱を握られた貫也は、里子に操縦されながら、心と身体、まさに「自分自身」を売っていく…。

あの人たちは夢がほしいのよ。
貴方のやっている事は夢を与えてあげることなの。

けれども、貫也は気づいてしまうんだよね。
里子が欲しているのはもはや金ではなくて、もっと里子の中の足りていない「何か」なのだということに。
他の女の夢を食い続けるほどに、里子はどんどん飢えていく。

そして、また里子が目を離した隙に貫也は「本物」を求めるようになってしまう。
優しい妻と可愛い子供と、話しが解る父親。あれが貫也が本当に望むものなんだよね。

雨の中、階段から落ちて、差しのべられた子どもの手を取り立ち上がる里子…。
貫也を失って…交差点で「夢売る」元凶となったOL・鈴木砂羽を見つけた時の里子。

あの流れが、もうどうしようもなく悲しくて虚しくて寂しくて涙が出た。

ラスト、里子が仕事場から見上げる空に飛ぶカモメ。そこから続く、貫也が見上げる刑務所の空にも同じカモメが飛んでいる。

あのカモメがまるで貫也の監視役のように見えて恐かった。貫也を引き続ける里子の手綱は無くなる事はないのだと、そう言っているように見えた。

・「夢売るふたり」公式サイト

 

 

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奈可久う子(くう)

◆ドラマ・映画 エンタメ系ライター&ブロガー。◆ハウツーサイトやリクルート・キュレーションサイトなどで映画紹介のライターしておりました。(お仕事はいつでも有り難くお受けします)

◆映画の評点はあくまでも私感です。(平均が2.5で1と5は滅多に付けていません)

◆戦争とホロコーストテーマの作品観賞がライフワーク。

◆レビューは上半部はネタバレなし感想、下部は観了した方と感想を共有できるように書いています。(古い記事は簡単感想です。時間のある時にリライトしています)

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