『累-かさね-』ヨカナーン。私、お前にキスしたよ。

累-かさね-

『累-かさね-』感想

作品情報

監督・キャスト

監督: 佐藤祐市
キャスト: 土屋太鳳、芳根京子、横山裕、筒井真理子、生田智子、村井國夫、檀れい、浅野忠信

日本公開日

公開: 2018年9月7日

レビュー

☆☆☆

劇場観賞: 2018年9月10日

 

「あれは化け物だ、お前の娘は。良く聴け、あれは化け物だ。」
「事実、あれのやったことは大きな罪。」
「まだよく判らぬ神に対する犯罪だ。」

あらすじ

伝説の女優・淵透世ふち すけよ(檀れい)を母に持つ少女・累かさね(芳根京子)は、母親ゆずりの天才的な演技力を持って生まれながらも、容姿は母に似ず、顔の大きな傷にも強いコンプレックスを持って生きてきた。そんな彼女に母が遺した一本の口紅。
その口紅は、キスした相手の<顔>を奪い取ることができる不思議な力を秘めていた――。
一方、美貌を持ちながらも、決して他人には言えない理由により花開かずにいる舞…(Filmarksより引用)

 

原作は松浦だるまの漫画『累-かさね-』

天才的な演技力を持つ女がいて、天性の美貌を持つ女がいて、どちらもどちらにない物を持ち、どちらもどちらにある物を持たなかった。

この映画のキャッチコピーは「教えてあげる。劣等感ってやつを。」だが、持たない者の劣等感が強くなるほど持つ者の優越感も強くなるという皮肉。

 

「天は人に二物を与えず」というが、この作品の天は一方に二物を与え、もう一方からは二物を奪うというイタズラをして見せるのだった。
 

そうなった時、人はどう動くか。

世にも奇妙的物語。

若手女優二大対決

ストーリーの面白さもさることながら、見どころは、やはり女優対決。
 
『鈴木先生』の小川蘇美からずっと注目してきた土屋太鳳さんが、やっと報われた。
 

とはいえ、ここまで「派手な美貌の持ち主」を演じ切るとは思わず。今まで、どちらかというと野に咲く花のような役柄が多かったので、ああ、磨かれたなぁ。本当に大輪の花のように美しく咲いたと感動する。
 

ここに重なるのが、これまた「何か抱えている少女」役の方が絶対に生きるのに……と常々思っていた芳根京子さん。鬱々と感情を抑え込む女から、全部表に爆発させる女まで、一作品の中で何度も変貌を遂げた。
 

今、この年齢で、この役はこの2人しか無かっただろうと思えるキャスティングだった。

ホラー的演出

役にのめり込んで人格が破壊して行く様を描く半ホラー的物語は『ブラック・スワン』を思い出す。

ホラーではないけれども、精神的にジワジワ来る。

そこへ持ってきてあの『ストロベリーナイト』を演出した佐藤祐市監督である。

淵透世が登場するホラー的演出にゾッとする。とても、いい。
 『累-かさね-』感想
 

そして、檀れいさんが本当に美しいんだ。

それはもう……「かつての大女優」の風格、そのもの。

土屋太鳳の本領発揮、創作ダンス

学生時代創作ダンスで全国へ行き、日本女子体大で舞踊学を専攻していた、その履歴が充分すぎるほど生かされるダンスのシーンも見応えがある。

 

非常に重要なシーンでのあのダンス。あれがお粗末な出来だったら全て台無しなわけで。

 

女優対決に魅入り、物語に引き込まれ、スクリーンで見る価値ありのエンターテイメント作品。

 


以下ネタバレ感想

劇中劇『サロメ』

 

『サロメ』は新約聖書を元に書かれた戯曲である。

さてヘロデの誕生日の祝に、ヘロデヤの娘がその席上で舞をまいヘロデを喜ばせたので、彼女の願うものはなんでも与えようと彼は誓って約束までした。すると彼女は母にそそのかされて、「バプテスマのヨハネの首を盆に載せて、ここに持ってきていただきとうございます」と言った。王は困ったが、いったん誓ったのと、また列座の人たちの手前、それを与えるように命じ、10人をつかわして獄中でヨハネの首を切らせた。その首は盆に載せて運ばれ、少女にわたされ、少女はそれを母のところに持って行った。

それから、ヨハネの弟子たちがきて死体を引き取って葬った。そして、イエスのところに行って報告した。(マタイによる福音書14章)

 
バプテスマのヨハネは『サロメ』の中ではヨカナーンにあたる。
 
王は兄弟を殺して王妃を奪った事を「不吉」と予言したヨカナーンを捕えたものの、預言者の言葉は正しかったので恐ろしくて処刑できずにいた。

王妃は不吉な予言と、自分の貞操を罵られた事でヨカナーンを憎み、処刑したかった。

そこで、「踊れば何でも与える」という娘と王との約束を利用してヨカナーンを処刑させたという話。
 
淵透世は累にささやいた。
 
ヨカナーンを殺してその首にキスをせよ。
 
かくして、累は丹沢ニナの首を奪って、その唇にキスをしたのである。

 

本編の話と劇中劇の融合。

そして、まさに「七つのヴェールの踊り」の最中にすげ替わって行く首。
 『累-かさね-』感想 七つのヴェールの踊り
 

偽物で売るということ、こういう世界ではそれは決して悪ではないと思う。

 

しかし、丹沢ニナ自身を失うことは、もう累は顔を変えるチャンスも失くすということで。

 
この先には崩壊した世界しか見えない。

 

そういう余韻も良かった。

 

キスすると顔が替わる口紅はどこからやってきたのか。

母は一体誰と入れ替わっていたのか。

謎は残るけれども、個人的には続編のようなものは見たくないな。

 
ちなみに、口紅は口から身体の中に入る物なので、あまり古い物は使わないようにご注意を……。

 

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