『ある過去の行方』秘密の結末

ある過去の行方 ~ LE PASSE ~

   

監督: アスガー・ファルハディ   
キャスト: ベレニス・ベジョ、タハール・ラヒム、アリ・モッサファ、ポリーヌ・ビュルレ、ジャンヌ・ジェスタン、エリエス・アギス、サブリナ・ウアザニ、ババク・カリミ、ヴァレリア・カヴァッリ
公開: 2014年4月19日

2015年2月15日。DVD観賞

『別離』のアスガー・ファルハディ監督がパリを舞台に家族を描く。
こんがらがった紐をほどくように少しずつ真実を見せていく手法は『別離』を思い出す。

130分間、家族の問題がずっと描かれ続けるのに飽きる事なく引きこまれた。
ラストのその後を頭の中で作って補填したくなる余韻も同じ 。

<あらすじ>
4年前に別れた妻マリー(ベレニス・ベジョ)と離婚手続きを行うため、イランから彼女のいるパリへと飛んだアーマド(アリ・モサファ)。かつて妻子と日々を過ごした家を訪れると、マリーと長女のリュシー(ポリーヌ・ビュルレ)が子連れの男サミール(タハール・ラヒム)と一緒に暮らしていた。マリーとサミールが再婚する予定だと聞かされるものの、彼らの間に漂う異様な空気を感じ取るアーマド。そんな中、マリーと確執のあるリュシーから衝撃の告白をされる。
「シネマトゥデイ」より引用

冒頭からもう、マリーとアーマドの関係が、観ている者の予想からどんどんズレていく。

物すごく嬉しそうに見えたのに、そんな関係だったのか。えっ、この子たちはどういう間柄なのこんな態度じゃ無理ないか…いや、でもこんな態度になっても仕方ないか。

観ながら思う事が二転三転されていく。謎は解けていくどころか深まるばかり。ほとんどBGMのない中、生活音と自分の正当性を訴える人たちの声が響く。脚本の妙で見る作品。

出てくる人、出てくる人、駄目な人ばかり。特にマリーの主張はそのまま家の「居心地悪さ」に繋がっている。けれども、それが何となく理解できてしまう部分もある。幸せを求めるのが人間だから。

4年間、家族から逃げていたアーマドの目線で観客はこの作品を見る事になる。アーマドの戸惑いはそのままこの映画を見ている者の戸惑いになる。

マリーを見ているとアーマドがイランに戻りたくなっちゃった理由もそこそこ解ってくる。しかし、可哀想なのは子どもたちだ。

両親の問題はいつの時代でも、どんな国でも、子どもたちを傷つける。

ああ、アーマドはマリーと離婚をするために帰ってきたのではなく、子どもたちの問題を片づける役割なんだなぁ…と思った。

アーマドやマリーだけではなく、末の子どもに到るまで丁寧な心理描写。そして各々が心に抱える事を打ち明ける度に引っくり返っていくミステリー。

家族の話にしてミステリーであり、自分勝手な愛と幸せを求める人たちの人間ドラマでもある。

隠しつつ、放り投げつつ、包み込み、明かしていく。アスガー・ファルハディ監督の脚本が素晴らしい。

人間と人生の複雑さ。「どうしてこうなってしまうのだろう」という理不尽な思いも抱えつつ、ラストシーンには 寂しい温かさも感じる。秀作。

『ある過去の行方』公式サイト

 

ここから下ネタバレ観てない方は観てから読んでね 

    


マリーと暮らす男はいつも出会って数年経つと出て行く。それでもマリーは恋をあきらめない。強い女である。

アマードがなぜイランへ帰ってしまったのかは詳しく語られていなかったが、仕事上の事で精神的に鬱状態になっていたらしいし、マリーの性格を考えたら一緒に暮らすのは困難だっただろう。

それでも、この映画の中ではアーマドはとても頼もしくて明るくて優しいパパであり夫だった。こんな男と一緒に年を取っていけない性格のマリーもまた哀れな女である。

空港の迎えのシーンで、マリーはとても嬉しそうに見えた。それは、あながち外れでもなかったらしい。サミールを好きになったのはアーマドに似ているからだと自覚していたマリー。

失った物をまた追い求める。そして結果的には両方失うのだ。

自殺未遂の前日、ママとサミールのメールを奥さんに送ったの。
私のせいで奥さんが死んだ人とは一緒に住めない。

リュシーがマリーとの折り合いが良くないのは…良くないように装っていたのは、後ろめたさの裏返し。

結局、マリーが作ったこの家族はマリー自身が壊していくんだね。

リュシーはサミールの妻にメールを送った。 送る前に妻に電話して了承を取った。
電話を受けたのは実は妻ではなく、従業員・ナイマだった。

リュシーは母とサミールを別れさせたかっただけ。
サミールはちょっと浮気して妻に嫉妬させたかっただけ。
ナイマはクリーニングのクレームの件で不法労働を問われたくなくてサミールの妻を辞めさせたかっただけ。
サミールの妻は夫とナイマの浮気を疑って洗剤を飲んだ。

奥さんは私と貴方のことを疑っていました。メールを読んでいたら薬局で死ぬわ!

マリーの家族の問題は、結局、サミール夫婦の問題にすり替わった

こんな勝手な大人たちの騒動に巻き込まれて、誰が親なのかよく解らない子どもたちはいう。

お家に帰りたい。

この子たちの「お家」は一体どこなのか。アーマドがそうなってくれれば良かったのに。

1人でまたイランに帰っていくアーマド…「それでも人生は続くよ」

望むような幸せがなかなか手に入らないそれぞれの人生の中で、夫の香水に反応するサミールの妻。

握られた手。

その先に、少し幸せがあればいいと望んだラスト。

  

ある過去の行方 [ ベレニス・ベジョ ]


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・象のロケット

★前田有一の超映画批評★

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