『遺体 明日への十日間』2万人の尊厳ある遺体

遺体 明日への十日間

   

監督: 君塚良一   
出演: 西田敏行、筒井道隆、志田未来、勝地涼、佐藤浩市、柳葉敏郎、酒井若菜、沢村一樹、緒形直人、國村隼、佐野史郎
公開: 2013年2月23日

2013年3月1日。劇場観賞。

もっとステレオタイプに震災を描いた映画なんだろうと勘違いしていた。

この映画の中には、津波もあの本震も瓦礫の山も出てこない。
出てくるのは、ただ、遺体安置所に運ばれてくる遺体と、そこで自分の仕事を淡々と続ける人たちだけ。場面もほとんど遺体安置所である小学校の中だけだ。
大げさに泣きわめく人も怒鳴る人もいない。
とても地味な映画である。

原作は小説ではなくて、ジャーナリストの石井光太氏が実際に見て取材して書かれたルポタージュだ。だから、作り物ではなくてドキュメンタリーのような作品になったのもうなづける。

それだけに、西田敏行さん演じるボランティアの相葉の哀れみでいっぱいな話し方や行動に初めは違和感を感じていた。

次々と運ばれてくる遺体。恐らくは一生の間にこんな仕事をするとは思ってもいなかっただろう、検死作業を依頼された医師や歯科医師、役所の職員、消防団…。
どうしていいか解らずボーっとするのも解るし、疲れ果てて作業が雑になるのも解る。
相葉のいう事がいちいち綺麗ごとに感じられた。

しかし、次第に解ってくる。
相葉がいなければ、ここに運ばれてくる人たちは、ずっと「死体」であって「遺体」にはなれなかったのだと。

観ている内に、本当に自然に涙が流れた。
感動したとか悲しいとか、そういう理屈ではなく、ただいつの間にか泣いた。

東日本大震災の悲劇を語る映画ではなく、目の前にある事を受け入れ、今できる事を真摯な態度でやり続ける姿を描いた秀作。

貴い命と引き換えに得られたこの教訓を伝えるためにも、見なければならない映画。

 

ここから下ネタバレ観てない方は観てから読んでね 

    


「そんな風に遺体を置かないで」とか「そんな風に扱わないで」とか、自分は家も失っていないのにウザい…と、相葉の事をそんな風に思ってた。

運んでいる人は必死で、もう自分も生きている心地はしないだろう。
後から後から来るんだし、仕方ない。口ばっかり色々言ってうるさい。と思ってた。

そんな風に思っていた私は、たぶん市職員の及川と同じだった。

実際には相葉だって多くの物を失っている。食料もないまま妻は家で待っている。そんな中で自分が出来る事、やるべき事に向き合っているのだった。

「遺体」は「死体」じゃない。尊厳を持って扱えば変わるんだ。

その言葉で、徐々に「遺体」の扱いを変えていく人々。

遺体に話しかけるようになる人々。

みんな生きていて、家族がいて、幸せに暮らしていくはずの人だった。
災害は人の心を壊す。尊厳も壊す。
相葉の存在は、壊された人たちを救った。

この映画を見始めた時に感じていた遺体への恐怖感が最後には消えていた。
ずっと手を合わせて拝むように見続ける映画だった。

ただ、自分がその時できる事を精一杯心を尽くしてやる事。
「人間」を最後まで「人間」として送ること。

そんな事をたくさん教えてくれる真っ直ぐな映画だった。

※この映画の収益金は被災地に寄付されるそうです。

「遺体 明日への十日間」公式サイト

 

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