『臨場 劇場版』刑法第39条

臨場 劇場版

監督: 橋本一
出演: 内野聖陽、松下由樹、渡辺大、平山浩行、益岡徹、高嶋政伸、段田安則、若村麻由美、柄本佑、市毛良枝、平田満、長塚京三、春木みさよ、前田希美
公開: 2012年6月30日

2012年7月4日。劇場観賞

2年前に劇場で見たのに感想をおさぼりしていたのをテレビ地上波放映のおかげで今さらUP. (この記事は2014年3月に書いています)

『臨場』は、2009年4月期と2010年4月期にテレビ朝日系列で放送されていた連続ドラマである。原作は横山秀夫氏による同名小説。

警視庁刑事部鑑識課検視官の倉石義男が周囲にも一目置かれる検死能力の高さで、刑事たちの捜査で及ばなかった証拠を被害者の遺体から上げていき杜撰な捜査のあり方を根本から引っくり返すというストーリー。

引っくり返すのだから痛快かと言えばそういう事ではなく、どちらかというと後味が悪いくらい切なく、事件が起こるまでの過程を「遺体の声を残さず拾う」事で抉り取っていく深さがあった。

1期が終わってしまう時は寂しくて、2期が終わってまた続くだろうとは思っていたが、劇場版になるとは思わなかった。

ドラマの出来が良かったので、当然、期待して観に行きました。あのテーマ曲が劇場で響くのかと思うと想像しただけで鳥肌ものだったし…。

見てすぐに感想を書かなかったのは、たぶん、ピンと来なかったからだと思う…。
色々と不満が残る劇場版だった。少なくとも連ドラの時の感動は無かった。

都内でバスジャックと無差別殺人事件が起こる。しかし、犯人は精神鑑定の結果、異常が認められ無罪と確定した。
その2年後。犯人の弁護士と精神鑑定医が殺害される事件が起こる。
警察は被害者遺族を容疑者として捜査を開始するのだった。

バスが都心に突っ込む冒頭の映像は迫力があり、劇場版ならではのスケールは感じた。でも、そこだけ。大写しのご遺体は見るのが辛かった。

後はいつも通り、地道な捜査活動とぶつかり合う捜査会議。刑事たちの杜撰な捜査結果に異を唱えていく倉石の姿がある。

連ドラファンとしては、お馴染みのキャラクターが帰ってきてくれた事はもちろん嬉しい。
…でも、2時間スペシャルで充分だった感は否めないよね…。

話自体も今回は、かなり複雑になっている。
いくつもの要因が事件に絡んでいるからだ。

2年前の通り魔殺人事件の被害者遺族。もっと前の冤罪事件。倉石の恩師。そして…恩師が〇〇だったり倉石自身も〇〇だったり…とにかく複雑なのである。

恐らく、この映画の大きなテーマは「刑法第39条」だと思うのである。
「刑法第39条」とは多くの方がご存じの通り、

・心神喪失者の行為は、罰しない。
・心身耗弱者の行為は、その刑を減軽する。

この法律を示す。

つまり、精神に異常のある者は人を殺しても罪を犯しても処罰されない。責任能力がないとみなされるのだ。

世間の賛否渦巻くこの刑法に触れる内容を描いていながら、この作品はゴタゴタと色々絡ませすぎているせいで肝心な所が薄くなってしまっている。作り手の訴える物が見えない。

結果、2時間サスペンスドラマで充分な雰囲気になってしまっているのが非常に残念だった。

キャストの皆さまにはレギュラー陣から今回だけの出演者にいたるまで、真に迫った演技を見せていただいた。
何だかんだ言っても倉石がカッコよくてナンボのドラマだから。そこはもう安定感。

特筆したいのは、被害者遺族を演じた若村麻由美さんの素晴らしさ。
母親としての嘆きと憎しみの叫びは、どのシーンも胸を打たれた。泣かされた。

犯人役の柄本佑さんの不気味さも良かった。

大事な子どもをある日突然奪われて…犯人がどんな状態だろうと許せないのは当然。時事問題にはブログであまり触れたくないが、この法律、見直していただきたいと心から思う。

ちなみに、昨日、2014年2月23日にテレビ放映された内容はラストが削られる事で劇場版とは違った結末になっちゃっていますが…それは意図してそうしたのかな そこの所はネタバレ欄で

ここから下ネタバレ観てない方は観てから読んでね


精神鑑定の結果、責任能力なしと判決が出た犯人・波多野に娘を奪われた直子。
冤罪によって息子を奪われた浦部。

どちらも世間によって理不尽に子どもを奪われた事になる。
その痛みはよく解る。
けれども、浦部の方は描かなくても良かった気がする。

「そんな事を息子さんが望んでいると思うのか!!」

ってセリフ…様々な刑事ドラマでもう聞き飽きました…。
個人的には望んでいるんじゃないの~と思ってしまう。

こういう事件ものを見るたび思うんだ。幽霊なんていないな…と。怨念なんてないな、と。
あれば、この犯人も冤罪をかけた管理官も呪われてしまえばいいと思う。

この事件に、結局は何の関わりもなかった一法医学者が、自分の死を前に中二病を発病したと…自己満足な犯罪であったという結末…。

結局、波多野はどうなったのかよく解らない…描きたかったのでは~と思われる「刑法第39条」問題は何処へ~

個人的には、いくら倉石カッケーーー作品だとは言え、刺されたはずなのに検死やってるとか…何だかラストの方は「倉石、刺されたよね…」ばかりが気になって、ストーリーに身が入らなかった。

…で…。
2014年2月23日テレビ放送のラストですが…。

この劇場版、倉石は突然バッタリ1人で路上に倒れ、金魚が居なくなった金魚鉢と植物が無くなった倉石の部屋が映されて終了します。

だから、この映画を映画館で観た人間は、

ええーーーーー倉石、殺さなくてもいいじゃんこんな形で「臨場」を終わらせなくてもいいじゃん

と、ムカムカしながら劇場を出たわけだが…。
テレビ放映では倉石が倒れた所もバッサリとカットされていてビックリしたわ。

これじゃ、テレビでしか見ていない人は「刺された気がしたのに実は刺されていなかったのか。だから検死も出来たんだね……」と思ってしまうよね…いいのか、それで。

もしかしたら、また続編作るつもりでワザと局が外して放映したのかしら~

だとしたら、劇場でこれ見てモヤモヤムカムカしたあの気持ちは何だったのだろうか…。

まぁ…元気に帰って来てくれれば別にそれはそれでいいけどさ…ちょっと釈然としない…。


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・象のロケット

★前田有一の超映画批評★

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★★邦画・ら・わ行日本映画

 

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この記事を書いた人
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奈可久う子(くう)

◆ドラマ・映画 エンタメ系ライター&ブロガー。◆ハウツーサイトやリクルート・キュレーションサイトなどで映画紹介のライターしておりました。(お仕事はいつでも有り難くお受けします)

◆映画の評点はあくまでも私感です。(平均が2.5で1と5は滅多に付けていません)

◆戦争とホロコーストテーマの作品観賞がライフワーク。

◆レビューは上半部はネタバレなし感想、下部は観了した方と感想を共有できるように書いています。(古い記事は簡単感想です。時間のある時にリライトしています)

◆姉妹ブログ「ドラマ@見とり八段」

映画感想@見取り八段

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