『東ベルリンから来た女』説明書のない人生

東ベルリンから来た女~ BARBARA ~

   

監督: クリスティアン・ペッツォルト   
出演: ニーナ・ホス、ロナルト・ツェアフェルト、ライナー・ボック、ヤスナ・フリッツィー・バウアー、マルク・ヴァシュケ、クリスティーナ・ヘッケ、ヤニク・シューマン、アリツィア・フォン・リットベルク
公開: 2013年1月19日

2013年9月12日 DVD観賞。

舞台は1980年の東ドイツ。

ベルリンの壁が崩壊したのは1989年。
第二次世界大戦後から1990年までドイツは東と西、2つの国家に分断されていた。
資本主義の国・西ドイツと共産主義の国・東ドイツ。
分断されたベルリンの東の人間は自由な西に憧れ、逃亡を企てる人間が続出した。

…という今さらな説明の上に立つ作品である。

主人公・バルバラは東ベルリンに勤務する女医だったが、西への移住願いを出したために国家に目をつけられ逮捕されたらしい。この辺の事情は作中で詳しくは語られない。

ストーリーはバルバラが東ベルリンから片田舎の病院に異動させられて来る所より始まる。

バルバラの印象が、とても頑固で孤立していて心を開かない一匹狼のような女性に見える。あまり好印象は持てない。

しかし、その理由は見ていく内にすぐに解る。

国家による監視下の生活。少し変わった行動を取れば秘密警察が部屋を調べにズカズカ入ってくる。身体検査までされる。自由は何もない。

着任した病院内にも監視の手先はいる。心を開けないのもムリのない事。

しかし、そんな中でバルバラはやるべき仕事はこなしていく。病院内の人間は警戒するが、患者への心遣いは細かい。

ストーリーは、西に憧れ、自由を手にするために行動するバルバラと、女医として患者に誠意を尽くすバルバラの日常を淡々と描いていく。

自転車を使うようになったのは、行動しやすいから。そして、院内の監視員でもある同僚の医師・アンドレに車で送られる事を拒むため。

患者を担当する内に、次第に心を開いていくバルバラの表情の変化が素晴らしい。
最初はあまり綺麗に思えなかったニーナ・ホスが、本当に素直になった時の可愛らしさ。

言葉はあまり多くはない。しかし、患者の事は熱心に語る。

アンドレもバルバラも敵でも何でもなく、ただ、目の前の患者に手を差し伸べる医師。
その情熱の深さに心が温かくなる。
   

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このアンドレがまた、誠実で見るからに優しくていいな…。
お料理してくれるシーンなんて、ウキウキした。料理男子がイケてるのは全世界共通。

結局は必要としてくれる人がいる場所が幸せなのか…と思えた。
強い風が吹く緑の町を自転車で走るバルバラの瞳の輝きは、何処ででもやっていける強さを秘めている。

この人ならこうするだろう、と納得できた決断とラストのワンシーンが好き。

ここから下ネタバレ観てない方は観てから読んでね 


アンドレが、「誰も説明書を見ずに、博士の手元と解説だけを聞いている」…と語ったレンブラントの絵画『トゥルプ博士の解剖講義』の話。
   

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英語だから説明書を見ずに助手の話を鵜呑みにして輸入した機械を使い、2人の患者の聴覚を奪ってしまった。と語るアンドレ。

バルバラは信じていなかったようだけれども、アンドレは多分、その痛みと共に患者に日々向き合っている。

アンドレにどんどん好感を持ってしまったので…バルバラには、ここに残ってこの人を救ってほしいと願って見ていた。

結局、トルガウの矯正収容所から逃げ出してきた妊娠している少女を自分の代わりに西へ逃がしたバルバラ。

病院に残してきた患者の事も気になって、そのまま行く事は出来なかった。

女医魂とアンドレが引きとめた逃亡。

ラスト、言葉もなく、病室で患者を挟んでただ微笑みあう2人に泣けてしまった。

必要としてくれる人がいる場所。
そこにも、人を愛する自由だけはあるはず。

・「東ベルリンから来た女」公式サイト

 


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・象のロケット

★前田有一の超映画批評★

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