『手紙』今いる場所から逃げないという事

手紙

作品情報

監督・キャスト

監督: 生野慈朗
原作: 東野圭吾

出演:  山田孝之、玉山鉄二、沢尻エリカ、吹越満、尾上寛之、吹石一恵、田中要次、山下徹大、石井苗子、原実那、松澤一之、螢雪次朗、小林すすむ、松浦佐知子、山田スミ子、鷲尾真知子、高田敏江、大橋智和、佐伯直之、安田暁、有川マコト、景山英俊、猪口卓治、西堀亮、滝沢秀一、岩佐まり、関根由佳梨、深沢菜央、司容熱子、宇和川士朗、360゜モンキーズ、ダーリンハニー、沢本ゆきみ、寺田千穂

日本公開日

公開: 2006年11月3日

レビュー

☆☆☆☆

劇場観賞: 2006年11月29日

 
その手紙は、時を遡り遡り
懺悔の言葉を繰り返す。
般若心経のように。

あらすじ

川崎の工場で働く武島直貴(山田孝之)は周りの人々と距離を置いて生活していた。兄の剛志(玉山鉄ニ)が直貴を大学にやるための学費欲しさに盗みに入った家で誤って人を殺してしまい、千葉の刑務所に服役中だからだ。兄と弟は手紙によって連絡を取り合っていた。一方直貴は子供時代からの親友・祐輔とお笑いコンビ“テラタケ”を組み、プロを目指している。そんな直貴に惹かれた食堂の配膳係・由美子(沢尻エリカ)は何かと彼の世話を焼こうとした。やがて“テラタケ”はブレイクし、直貴は大企業の専務令嬢・朝美と恋に落ちた。しかし、インターネットの書き込みから直貴が殺人者の弟だという噂が広まってしまう…(ぴあ映画生活より引用)

 

このレビューは2009年に楽天ブログから移転した短感です。

犯罪者の身内とは、こんなにも差別を受け続けるものなのか。

罪を犯した者は塀の中に入ってしまえば、外を知る事はできない。
罪を償うという事は、剛志にとっては塀の中の孤独と闘う事だったのかも知れない。

ただ、一つ。手紙。
自分と外を繋げる手紙。

 
弟から来る手紙を待つ。そして、書く。

しかし、弟にとっては、兄から来る手紙は、ただの手紙ではなかった。

手紙が届くたびに思い知らされる。
自分は犯罪者の身内であるという事実を。

 
電気店の会長が言っていた言葉が心に響く。

「きみの受けている差別。
それも含めて、お兄さんの罪なんだ」

例え、自分は何もしていなくても、犯罪者の身内であるから差別される。

では、兄は、その事を知らなくてはいけないのではないだろうか…

 
「差別のない国を探すんじゃない、君はここで生きていくんだ・・・」

そうして、ここで生きていく決心が着いた直貴に新しい道がやっと見えてくる。

結婚し、守らなくてはならない家族を持った時、今まで出来なかったこと。

やらなくてはならなかったのに、やらなかったこと。

それは、兄に自分の苦しみを伝える事。

その最後の手紙で、兄は初めて自分に課せられた本当の罰を知り、今までよりも、より苦しむ事となる。

そして、弟は罰を科した兄を見捨てる事なく支え続ける事を宣言するために兄の元へ向かうのである。

 

とにかく、登場人物の強さに感動する。

剛志が罪を犯してから、その事は一言も兄に言わず世間の差別に耐え続けた直貴と、それを演じる山田孝之は素晴らしい。

そして、沢尻エリカ演じる由美子が、本当に仏さまのように強く優しい女性なのだ。
(TVドラマ「タイヨウのうた」でのガッカリは、この映画で晴らすことができました。)

この2人ならば、この先もずっと互いを支えながら、罪を償い続ける兄を見守っていく事ができるだろう、と 確信できるラストだった。

 

最近、自ら命を断ってしまう人が増えている。
自分のいる場所を探しきれず、逃げてしまう人が何て多い事か。

この映画に出てくる人たちは、誰も自ら命を断ったりする事はないだろう。

 
弟は兄を見守らなくてはならず、
妻は夫を支えなくてはならず、
兄は弟のために罰を受けなくてはならないからである。

 
人との関わりが人間を強くする。
今いる場所から逃げず、そこで関わりを見つけて生きていくこと。
その難しさと、やり遂げる尊さを教えてくれる作品だと思う。

 

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・象のロケット

★前田有一の超映画批評★

comment

  1. ミマム より:

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    PASS:
    こんにちは。今日、見に行って来ました。
    「タイヨウのうた」を思い出しちゃったけど、私もこの映画で帳消し、かな(笑)
    ラストに泣けました。

  2. BROOK より:

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    PASS:
    コメントありがとうございました。
    たしかに最後にグッとくる作品でした。
    玉山鉄二さんの演技が非常に良かったと思います。
    一生懸命手を合わせて・・・。
    沢尻さんの関西弁ですが、
    私も全く気になりませんでしたよ。

  3. てれすどん2号 より:

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    人との関わりですか、、、くうさんはさすがにひとつの映画で本当に大切なことを感じられているようですね。僕なんかきになるとこがきになって、感動が最高ボルテージまでいかなくて、、、。でもみなさんには十分そこまで持っていってくれる作品だったと思います。今でもラストは思い出しちゃいます。

  4. Range より:

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    PASS:
    この映画は良かったですね!
    こんなにも深く、厳しく、心を打つ映画はそうはないです。
    社長さんの言葉はとても印象的でしたね。
    由美子も本当に強くて優しくて。彼女がいなかったら直貴はどうなってしまっていたんだろうって思います。
    それにしてもいつもながら、くうさんの文章は詩のように綺麗な文章ですね~。
    まとめ方がとても上手いです。私もこんな文章が書けるといいなぁ。

  5. ノラネコ より:

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    TBどうもでした。
    私には直貴の強さは認めても、生き方にどうにも肯定できかねるものを感じて感情移入が出来ませんでした。
    確かに感動はしたのですが、それは直貴ではなく、回りの人々の暖かさ、誠実さに対してだったように思います。
    実は素晴しく回りに人々に恵まれている事に気付かない直貴に、イライラしてしまったのが実際のところです。
    原作読んでたら印象も違ったのかもしれませんが。。。
    http://noraneko22.blog29.fc2.com/

  6. Range より:

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    PASS:
    この映画は良かったですね!
    こんなにも深く、厳しく、心を打つ映画はそうはないです。
    社長さんの言葉はとても印象的でしたね。
    由美子も本当に強くて優しくて。彼女がいなかったら直貴はどうなってしまっていたんだろうって思います。
    それにしてもいつもながら、くうさんの文章は詩のように綺麗な文章ですね~。
    まとめ方がとても上手いです。私もこんな文章が書けるといいなぁ。

  7. SECRET: 0
    PASS:
    見てみたいなぁ~と映画館で思いましたけど、見に行けないだろうな。
    犯罪者の家族は生き地獄だと思うよ。
    当の本人よりも何倍も苦しみ続けるよね。
    家族、兄弟と言うことで・・・・・
    親であれば、自分の責任とも思えるけれど、兄弟は辛いと思う。

  8. えしゃ母 より:

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    PASS:
    なるほど、そういう内容なんですね。
    随分骨太で、ずっしりとした現実感を持った映画ですね。
    映画を見ていない私に迄、その感じを投げてくる、くうふうさんの感じ方、文才にも唸らせてもらいました。

  9. くう より:

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    PASS:
    まさみさん~(; ;)
    私も、携帯でしかアクセスできなくなる日が近いかも。。。
    その前にバックアップしなきゃ(>_<)
    まさみさんは原作を読まれているんですね。
    ぜひ機会があったら映画も見てみて下さい。
    DVDでいいかも~。

  10. くう より:

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    PASS:
    引っ越しして名前も変えたりしたら、現実は解らないのが
    ほとんどだろうね。
    この人の場合は、芸能界に入ってしまったせいで、
    変なところから調べが付いてしまい、それが悪かったかな。
    私も見に行って良かったと思った。
    期待通りの名作でした。

  11. くう より:

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    PASS:
    ラスト、慰問での兄の手を合わせての号泣場面と、
    あのシーンに合わせた「言葉に出来ない」が、涙を
    誘いましたね。
    原作の素晴らしさと演出、役者の全てが合わさった
    名作になりました。

  12. ひなたまさみ より:

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    くうふうさーん、
    ついに携帯になっちゃった!(涙)
    「手紙」、映画も観たくなりました。くうふうさん、相変わらず伝え方がお上手ですね☆才能だわぁ~!

  13. SECRET: 0
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    私も見てきましたよ・・・
    犯罪者の家族って ここまで差別受けるんですね
    でも引越しして住所を変えたら 多分分からないと現実は思いますが・・・・
    玉山鉄二さんの慰問の時の手を合わせてるシーンと
    「差別のない国を探すんじゃない、君はここで生きていくんだ・・・」この台詞が印象的でした。
    見に行ってよかった・・と思った作品でした。

  14. たろ より:

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    こんにちは。
    この作品は、特に終盤の見事な物語展開での、玉山鉄二さんと山田孝之さんの渾身の演技が素晴らしかったと思います。
    また遊びに来させて頂きます。
    ではまた。
    http://blog.goo.ne.jp/loversoul_2005/

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