『ルーム』天窓より高い世界

ルーム

~ ROOM ~ 

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監督: レニー・アブラハムソン
キャスト: ブリー・ラーソン、ジェイコブ・トレンブレイ、ジョアン・アレン、ショーン・ブリジャース、トム・マッカムス、ウィリアム・H・メイシー


公開: 2016年4月8日  観賞: 2016年4月11日

 第88回アカデミー賞主演女優賞受賞(ブリー・ラーソン)

 

真相が解った時、今、日本人なら誰でも「あっ…」と思ってしまうんじゃないかなあと…タイムリー過ぎて。

だから私たちが今一番解るはずである。こういう事が起きた時、マスコミが、ネットが、どんな風に報道し騒ぎ、野次馬がどんなことに興味を持ちどんな風に評するのか。

◆あらすじ
施錠された狭い部屋に暮らす5歳の男の子ジャック(ジェイコブ・トレンブレイ)と、母親ジョイ(ブリー・ラーソン)。彼女はオールド・ニック(ショーン・ブリジャース)によって7年間も監禁されており、そこで生まれ育った息子にとっては、小さな部屋こそが世界の全てだった。ある日ジョイは、オールド・ニックとの言い争いをきっかけに、この密室しか知らないジャックに外の世界を教えるため、そして自身の奪われた人生を取り戻すため、部屋からの脱出を決心する。(シネマトゥデイより引用)

予告を見た限りでは、どういう状態なのかよく解らなかった。

もう少しファンタジーに近いストーリーなのかと思っていた。「部屋」というのはもっと精神的な何かの象徴なのでは、と。

実際の事件をモチーフにした小説が原作だったのだとは後から知った。実在の事件の方がもっと犯人が鬼畜で驚いたわ。

フリッツル事件 – Wikipedia

少年目線で描かれる「部屋」は薄暗く天井は高く、オールド・ニックは荒々しく大きい。
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母親が何をされているかは描かれない。

ジャックとしては、母が居てくれるこの世界に不満はそれほど無かったと思われる。だって、他を知らないもの。比較対象がなければ人は不満など抱かないものである。

むしろ、今まで母から教わってきた世界の話が嘘で「外」が存在し、そこで暮らさなければならないと知る不安の方が大きかっただろう。

閉じ込められる世界もそこが全世界なのだと思えば外界の方が気持ち悪い異次元なわけで、「外」がそんなに美しいかというとそんな事はないってのもみんな知ってる。

外の世界へ戻ることを切望し、自分の世界の構築に苦しむジョイを演じたブリー・ラーソンはもちろん素晴らしかったが、「外」との出会いを生まれたての子供のようにリアルに演じたジャック役のジェイコブ・トレンブレイくんが本当に素晴らしい。
  
前半の、あのシーンの表情はもう……本当に。ああ、こういう顔になるだろうさ、って思った。
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「外」は空が高くて広い分、敵もいっぱいいるけれども出会いも愛もあるんだと…そう思わせてくれる描写が良かった。

こんな題材だから、辛いけれどももっとステレオタイプにゲスく描く事も出来たわけで、そんな風にしなかった所に救われる。

スリリングな展開にハラハラしたり、人の情に触れたり、親子問題と社会について考えさせられつつも人間ドラマに魅入る。名作。

ここから下ネタバレ観てない方は観てから読んでね 

    


 

逃げ出すシーンではもうハラハラ。
マットから転がり出て高い青い空が広がった時の表情が…
ああ、きっとこんな風に感動するんだろうな、誰もが初めて空を見た時。
リアルにそう思えたわ。

オールド・ニックが、よく言った通りにトラックに乗せて門の外へ出てくれたよなぁ。

私が犯人だったら、たぶん納屋の外の木に埋める。日本のように隣の家が密着しているわけじゃないし、自分の土地よりも安全な所なんてなさそう。犯人もずいぶんなお馬鹿さんだったという事か。

ジャックをまともに見れないジョイの父親の複雑な気持ちはよく解る。
子どもは孫であると同時に娘を監禁した男の子供なのだから。しかし、その辺は何も触れずに和解もせずに終わってしまった。もっとも、そういう男だから母親は別れたという事なのだろう。

ジョイの母親の感情も見えづらかったな。だから、初めは金のために娘をマスコミ取材に出すのかと勘違いしてしまったほど。

結局、母親の彼氏という人が一番ジャックをよく見て理解していたのかもしれない。血の繋がりがない傍観者の利というやつなのかも。

「どうしてそんな残酷な事が言えるのだろう」とマスコミの言葉に憤慨しながらも、確かに生まれた時に外に捨ててくれという事はできたよな。とは思った。

しかし正しいことが正義とは限らない。何が正しいとも言えない。

どんな環境であろうが、それが独りになりたくない願望の果ての事であろうが、子どもを5歳まで育てきったのは間違いなくこの人なのだ。

すっかり鬱になってしまったジョイのことは誰も責められない。こんな体験、ほとんどの人間が一生のうちにする事ではない。

日本で最近発覚したあの事件も…憎まれるべきは犯人なのに、やはり色々と邪推され毎日毎日報道される。

それでも、本来居るべき場所に戻れたことは未来を掴む可能性を得られたことのはずだから。

ここで幸せになってほしい。

ジョイを連れて、「部屋」に戻るジャック。

どんな場所だろうが、そこはジャックの故郷だった。
牢獄のような環境なのに、なぜかノスタルジックなこのシーンが好き。

「これが部屋?小っちゃくなったの?」

部屋が小さくなったのではなくて、ジャックが大きくなったんだよ。広い世界を知ったから。本物の世界を見たから。

『ルーム』公式サイト

 

 

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・象のロケット

★前田有一の超映画批評★

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comment

  1. nakakuko より:

    yukarinさん
    >逃げ出すシーンは大丈夫とわかってても手に汗握りました!
    ですよねーー!!
    ハラハラしましたよ。
    先を知らないので、あそこで捕まってまた連れ戻されるんじゃ…とか色々考えました。
    自分の家の敷地に埋めようとされちゃったら計画倒れですよね(爆)確かに、物語が進まないわーー

  2. yukarin より:

    こんにちは。
    逃げ出すシーンは大丈夫とわかってても手に汗握りました!
    おっしゃるとおり、なぜ自分の家の敷地内に埋めなかったんでしょうね。ちゃんと確認もしないし….って言ったら物語は進みませんね^^;

  3. nakakuko より:

    BROOKさん
    私は何の情報もなく見たので脱出劇なのだと思っていたんです。
    母子とも心配していたのに中盤前に脱出が済んで、あれ、こういう話だったのか…と。
    サスペンスでは無くて人間ドラマでしたね。とても見応えありました^^

  4. BROOK より:

    >逃げ出すシーンではもうハラハラ。
    ホント緊迫感ありましたよね。
    もうどうなってしまうんだろう?と、たしかにハラハラしました。
    逃げ切れたものの、今度は母親の方がが心配で…
    映し方も非常に良かったと思います。
    ラストの締め方も巧かったですね。
    あそこから2人の物語が再スタートするというような希望が感じられました。

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