『葛城事件』親が一体なにをした

葛城事件

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監督: 赤堀雅秋
キャスト: 三浦友和、南果歩、新井浩文、若葉竜也、田中麗奈、内田慈、伊藤正之、大方斐紗子、佐藤直子、黒田大輔、谷川昭一朗、児玉貴志、フェリ、古島裕敬、山野史人、名取幸政、津田真澄、かんのひとみ、市川しんぺー、田村泰二郎、五味多恵子、大滝寛、粕谷吉洋、石田圭祐、中野英樹、萩原利映、松本たけひろ、坂口進也、上杉二美、山像かおり、小柴亮太

公開: 2016年6月18日  観賞: 2016年6月22日

 

人間の一生はどうして一回きりなのだろう。
なぜやり直しが利かないのだろう。

こんなになるはずがないと思いながら作った「家族」。
正解が解らない…。

◆あらすじ
父親から受け継いだ小さな金物屋を懸命に切り盛りし、マイホームを手に入れ、妻の伸子(南果歩)と共に長男・保(新井浩文)と次男・稔(若葉竜也)を育て上げた葛城清(三浦友和)。理想の家族と生活を築いたと考えていた彼だったが、21歳になった稔が8人を殺傷する無差別殺人事件を起こして死刑囚になってしまう。自分の育て方に間違いがあったのかと清が自問自答する中、伸子は精神的に病んでしまい、保は勤めていた広告代理店を解雇される。やがて、稔と獄中結婚したという女・星野が現れ……。(シネマトゥデイより引用)

 

見終って、もう心からどんよりした。

自分の親とも自分の家族とも被る部分も確実にあって、自分自身も突き刺されている気がした。

この映画を見て「うちの家族は全然違う」「子育てが悪いからこういうことになるのよね」とキッパリ言える人は羨ましい。

こういう人に関わりたくない、とか、紙一重ですよね、とか他人事のように言える人も羨ましい。

私は笑ったわ。中華料理屋のシーン。

自己中心で自分語りのクレームをつける親、気まずいテーブル。

ウチの父親をモデルにした話なのかと思った(笑)何度あんな風に店員さんへ「すいませんね」の目配せをした事か。

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新築のシーンもウチの親を見ているようだった。

自分の建てた城をとても誇りに思っていた。最後まで自分の失敗に気づかず死んだ。ある意味、とても幸せな人。

そんな親の下で育った私でも、充分に稼いで豊かに暮らさせていただいた事に関しては感謝している。感謝しやがれと押し付けながら育てられても、そこは本当に感謝している。

だから葛城清にも同情できる。どんなに最悪な毒親でも。
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だって、家族なんてどう作れば「良いもの」になるの
誰だって鬼畜を育てようなんて思わずこうなるんだよ、きっと。

「毒親」「毒親」うるさい。親を責める若者たち。あるいは立派な中年層。

「こんな立派な子育てを私はしていますよ」の氾濫、素敵な子育て論と家族自慢。ネットが時々心からイヤになる。

けれども、親が育て上げた人格が子どもの一生を左右するのは確かだ。

子育ては本当に罪深くて恐ろしい苦行。

葛城清は一生懸命自分なりにやった。けれども、彼が作り出した「葛城家」という澱は家族全員を汚し続けた。

思い通りにならない人生。
葛城清の気持ちも、2人の息子たちの気持ちも、伸子の気持ちも何となく解ってしまう。

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でも、救ってはあげられない。
そして、やはり、関わりあいたくないよ。

だから、そんな私には星野はサッパリ理解できない人種だ。
ずっとイケ好かないと思いながら見ていたので、ラストの顛末はむしろ可笑しかったわ。

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わざわざいう必要もないが、役者さんたちは皆さん本当に凄くて…もう、本当に凄くて息が詰まった。

特に、葛城清を演じた三浦友和の傲慢さと汚さとずるさと馬鹿さと哀れさには心の底から嫌悪感を覚えた。

凄い。凄い役者だ。

 

ここから下ネタバレ観てない方は観てから読んでね 

    


 

長男は親父の夢である「パリッとしたスーツを着たビジネスマン」を捨てられなくて、会社をクビになった事を言い出せない。母親に可愛がられる弟を憎く思っても優等生の顔しか見せられない。

弟は家族全員から甘やかされて自分本位に育ち、腫物のように扱われて生きている実感を持てない。

母親は壊れていく息子たちに気づいても気づきたくない。壊れていく家庭と共に自分も壊れていくしかない。

父親は根源が自分だとは思っていない。だって、頑張って育てたはずなのだから。

行き場のない閉塞感と絶望を抱えながら毎日「出勤」する保の最期の笑顔。
新井浩文さんはこんな顔もするんだ…と思った。悲し過ぎて泣いた。

「人間の可能性を捨てたくない」とか「死刑制度に反対だ」とかいう理由で獄中結婚する「善良な」星野がラスト、清に襲われた時の顔ね。結局、偽善者なんじゃん。稔は救おうとしても清は救えないってか。

しかし稔は最期の面会で少しは自分自身を振り返る言葉を吐いたので…こんな女でも救いにはなったのかな。

刑が確定してから1年半の早さでサッサと死んでしまった稔。
少しでも生かして償わせたいという清の願いは叶わなかった。

そして、なかなか死ねず少しでも長く生きて償い続けるのは親である清の方だという皮肉。

息子たちがすくすく育つように植えた記念樹は首も括らせてくれなかった。

食べるシーンの多い映画だ。
最後まで食べ続ける。あまり美味しくもなさそうな物を。

それでも、生き続ける限り人は食べるのだ。

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・象のロケット

★前田有一の超映画批評★

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