『そして父になる』生物学上の親子

そして父になる

   

監督: 是枝裕和   
出演: 福山雅治、尾野真千子、真木よう子、リリー・フランキー、二宮慶多、黄升満マーク、風吹ジュン、國村隼、樹木希林、夏八木勲、中村ゆり、高橋和也、田中哲司、井浦新、吉田羊、ピエール瀧
公開: 2013年9月28日

2013年9月25日。劇場観賞。

第66回カンヌ国際映画祭・審査員賞受賞。

生物学的に血が繋がった子供と、自分の手で育てた子供と、どちらを選ぶのか…という話である事は、散々宣伝されているのでネタバレではないだろう、と思って書いてしまう。

つまり、最後はどうなるのか、何が起きるのかとハラハラしながら見るような作品ではないということだ。

静寂と静かな音楽の中で、親としての決断に至るまでが淡々と描かれる。

子供を作ったからといって親になるわけでもなれるわけでもなく、そこには人間としての関わりが必要だと主人公が気づくまでの物語。

大手の建設会社に勤め、家庭よりも仕事を優先してきた野々宮良多にある日、突然1本の電話が入る。それは6年間育てた1人息子の慶多が出産時に取り違えられていたという信じられない連絡だった。

舞台は「現代」であり、昔と違って取り違えなんてあり得ないでしょうという話だが、その辺の説明はきちんとある。

(ちなみに出産時に知らされる子供の血液型は母親の血が検査に出てしまう事があり、100%あてにはならないそうです)

なぜ起きてしまったのか、というよりも、起きてしまった事をどうするか…。

主人公・良多の思考はあまり人間的には思えず、共感もできない。妻・みどりの複雑な感情には少し共感できた。…自分だったらあんなに夫のいうままにはならないと思うけれども。

多くの人が「血なんて関係ない、育てた時間でしょ」と、映画が始まってすぐに思うだろう。

しかし、子育てとは複雑な作業だ。

子どもが大きくなる過程でもしも何か事件でも起こすような事があったら…きっと自分の子供じゃないからこんな事をしたに違いない、と、思うかも知れない。

ましてや、あまり家庭に目が向かず仕事一筋で生きてきた父親の目から見たら「時間よりも血」なのかも知れない。

たぶん…「どんな子供」でも受け入れられる大きな器と、気長に子どもを見守る事ができる目。それが親の資格として一番必要な事なのだろうと思う。

慶多がね…また、クリクリした目で大人しくて素直で可愛いんだよね。
 

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だから、斎木家で育てられた元気で子どもらしい琉晴が野々宮夫妻に育てられる気がしないのだった…。

子どもは「血」では無くて、育った環境で成長する。
どんなにこの先容姿が自分に似てこようが、自分の家に馴染まない子どもは受け入れられない気がする。私だったら絶対に嫌だ。

こういう事があって、初めて「父である自分」を見つめ直す良多。同時に人間としての自分を見つめ直す…。大人の成長物語。

自分を責めて情緒不安定になっていくみどりを演じる尾野真千子。言いたいことはズバズバ言い、ぶっきら棒だけれども心が広い斎木家の妻を演じる真木よう子。どちらも有りそうな母親像が自然で素晴らしい。

また、両家の子役を演じた二宮慶多くんと黄升炫くんも…本当にね、居そうな子供だった。とても自然。
是枝監督が撮る子どもの繊細な目線は本当に素晴らしい。
「誰も知らない」しかり「奇跡」しかり。

リリーさんの飄々とした親父っぷりがまた、いいのね…。こういうお父さんがいい。こういうお父さんが欲しかった。
   

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とんでもない話だけれども、これが起きなければ、たぶん良多という人は一生変わらなかったんだよね…そう思うと事件自体が良多のための天からの贈り物だったのかも知れない。

親は子供を育てて初めて親になる。
子どもとは、親を人間的に育ててくれる大切な宝物だ。

ここから下ネタバレ観てない方は観てから読んでね 


「親子関係はない」
というDNA鑑定の結果を見た時の両家のショックは計り知れない。

こういうケースの場合、交換するのがほぼ100%…ってほんとうなの
信じられない…そんなに血のつながりが大事かなぁ。

あれこれと手を考える良多に比べて斎木家はとても冷静だ。
この人たちには、どんなに親が苦しもうが子どもは子どもであるという覚悟が出来ているのだろう。

良多は自分の経済力と比べて斎木家の経済力を危ぶむけれども、交換させられた子供がこの家の子供であった事は良多にとって本当に良かった事だと思う。

もしも、子供が交換された家が同じような経済力で同じように子育てされ同じような思考の父親の家だったら…たぶん、子どもはアッサリと再交換されてしまったのだろう。

たぶん、両家の子供は同じように抵抗を示さず大人しく育ち、歪は大人になってからやってくる。

何も考えずにアッサリと交換される子どもがいるわけがないのだもの。犬や猫じゃない。お人形ではない。

6歳まで育てられた親から捨てられた悲しみは彼らの心の中に溜まり続けるに決まっているのだ。

経済力の観点からしか物を見れず「2人ともください」と言った良多が、琉晴が家出して帰ってきた時に斎木から「ウチは2人とも貰っても構わないんだから」と言い返されるシーンで、ちょっとザマミロ…と思ってしまった。

「代わりが効かない」ことを子供と関わって初めて知る。

本当に、この家族に出会えてよかったね。

この先、きっと両家は家族のように関わっていくのだろう。4人で2人の子供を育てるのだろう。

何も説明はないが、そう思わせてくれるラストに幸せな涙が出た。

・「そして父になる」公式サイト

 

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