【悪人】誰が悪いのか?悪人とは何を示すのか?

悪人
 

監督: 李相日   

出演: 妻夫木聡、深津絵里、岡田将生、満島ひかり、柄本明、樹木希林、宮崎美子、光石研、余貴美子、井川比佐志、塩見三省、松尾スズキ
公開: 2010年9月11日

     

モントリオール世界映画祭・最優秀女優賞受賞
第34回日本アカデミー賞・最優秀主演男優女優賞、他3部門受賞
第65回毎日映画コンクール・日本映画大賞受賞
第35回報知映画賞・作品賞、主演女優賞、助演男優賞受賞

2010年9月15日 劇場鑑賞。

感想をおさぼりしていたのを今頃UP。(この記事は2011年11月に思い出し書きしています。)

劇場で見終わった後は、何かもう、どんよりして、感想書く気になれなかったのである。

主人公含め、全ての登場人物に共感も好感も持てず、ただ、当事者たちの保護者が気の毒で気の毒で、「子供がこんなことになったら、親は救われない」と、親目線でしか見れなかったことを覚えています。

そんな、イタイ、イタイ人たちを描いた作品。

しかし、こうして公開から1年経って地上波で放送されたものを見ると、改めて「保護者もイタイ人たちなんだな」と思えてくる。

上から目線ということではなく、私だってそう。たぶん、あなただってそう。
人間はみんなどこかが欠けていて、どこか痛い人なのだ。

イタイ人生を、それなりにもがき苦しみながら生きている。
「悪人」とは、みんなを指す。

「フラガール」の時も思ったが、李相日監督は、田舎や貧乏生活や希望の見えない生活の鬱々とした情景を描くのが本当に上手い。その抜け出せないドロドロが嫌というほど見ていて身に染みるから、灯台から見る開かれた風景の清々しい悲しさが、よけい心に響くのだった。

人とのつながりの大切さを、自分を思ってくれている人がいる。
そのありがたさを、もう一度わが身を振り返って考える。

 

ここから下ネタバレ観てない方は観てから読んでね 

    


「悪人」とは普通、「悪事を引き起こした人」を指す。
しかし、「悪い傾向に物事を持って行ってしまう人」と考えると、この映画に出てくる人全てが 「悪人」と言えなくもない。

1人娘をあんなイタイ人に育ててしまった優しい床屋の夫婦も、孫を育てた責任から最後まで逃げなかった 老婦人も、そういう意味では「悪人」なのだろう。

雨の中、娘が亡くなった山道で、娘の幻に語りかける父。

私がこの映画で一番心に残っているシーン。

親はバカだ。どんな娘だって大切だ。

「お前は悪くない」
傘の中で涙を流して寂しく微笑む娘の姿に、父の心の中に描く 愛娘の「そうあって欲しい姿」が映し出される。

性の対象を求めて出会い系サイトで相手を作る祐一も、 ダメンズにハマって最後まで付いて行ってしまう光代も、 私にとっては全く好感の持てない人たちだった。

むしろ、キャラクターとしては、虚栄心丸出しの大学生と、 変な自尊心の塊のせいで被害に遭った佳乃の方が面白い。

自分自身も鬱屈した心を抱えながら、事件を起こした孫の保護者という 立場から最後まで逃げようとしなかった祐一の祖母。

どんな娘でも、ひたすら愛し続ける限りなく優しい佳乃の父。

この2人が私にとっては、この映画の主役だった。
賞を出すなら、柄本明さんと樹木希林さんに。

あんた、大切な人はおるね?
その人の幸せな様子を思うだけで、自分まで嬉しくなってくるような人は。

今の世の中大切な人もおらん人間が多過ぎる。

自分には失うもんがないち思い込んでそれで強くなった気になっとう。
だけんやろ、自分が余裕のある人間って思いくさって失ったり、
欲しがったりする人をバカにした目で眺めとう。

そうじゃないとよ。
それじゃあ人間は駄目とよ。

佳乃の父が、増尾にぶつけるこのセリフ。

これが、この映画の全てを示している。

見終わって鬱々としつつも、自分を大切にしてくれる存在について、自分が大切に思っている存在について、もう一度考え直す機会をくれる。
そんな作品だったと思う。

(でも、「この映画好きですか?」と聞かれたら、私は「嫌い」だと思う。それは確か。)

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