映画@見取り八段

自己満足映画批評ブログです。邦画・洋画などジャンル問わず観賞。劇場上映中作品のネタバレ感想は別枠で表記。ランキングは年末総評価まとめで。

【神童】わたしが「音楽」だから

神童

  



監督: 萩生田宏治
出演: 成海璃子、松山ケンイチ、手塚理美、甲本雅裕、貫地谷しほり、柄本明、三浦友理枝、串田和美、浅野和之、渡辺憲吉、キムラ緑子、西島秀俊、吉田日出子、岡田慶太、佐藤和也、安藤玉恵、柳英里沙、賀来賢人、モーガン・フィッシャー

公開: 2007年4月



CS・チャンネルNECOにて視聴。原作は未読。

若干のネタバレ含みます。


とても、優しい映画。

空も雲も風も木々も、人の心も全て、美しいピアノの調べと共にある。
騒いでいるのは主人公うたの心だけかも知れない。

言葉を発するよりも先にピアノが弾けたと言う「神童」うた

「神童」と言えば、すぐに思いつくのはモーツアルトだ。3歳でピアノを弾き、5歳で作曲し、一度楽譜に目を通した後は見なくても正確に音を奏でられたなどの逸話の数々・・・

神に与えられた才能。神に等しい才能。まさに神の童なのだ。

しかし、「神童」うたはモーツアルトとは違い、自分が音楽を好きなのかどうか解らない。自分に与えられた才能に喜びを見いだしていない。

子供の頃からその才能をより育てるために母親によって体育の授業を制限され、常に手袋着用を強いられる。いつの間にか学校でも浮いた存在になり、友達との間にも垣根ができる。

思春期を迎えて、うたは音楽を強要される事に嫌気が差してきていたのかも知れない。

そんな時に訪れた、音大を目指すワオとの出会い・・・

ゆったりと動くボートと光る水面が印象的。

音楽が大好きなのに今ひとつ神から才能を与えられていないワオと、音楽をやる意味が解らないのに溢れる才能を持ったうた

崖っぷちの音大受験を、それでも諦めないワオと接する内に、うたに変化が現れる。

それは初めは才能もないのに音楽を渇望する凡人への単純な興味だったのかも知れないけれども。

才能のないワオが、音楽に興味のない天才うたに変な嫉妬心を見せたりしない所が良い。ワオは本当に単純で優しい青年。その両親もまた、子供を大らかに育ててきた大きな心の持ち主だ。

ワオとうた、お互いの家庭環境やお互いの学生生活、など場面が頻繁に飛び、ストーリーの内容は少々散漫。

 

特に、ワオがやっと受かった音大で着いていけない自分の才能の限界の中で出会った恩師や、声楽科の女子(彼女なの)などの描かれ方が不足していて、脳内補填しなきゃならない部分がありすぎなのが残念な所。

しかし、そんなマイナスを補って余りある印象的な映像と音楽。
そして、主演の成海璃子松山ケンイチが作り上げる、映像の中に溶け込むような清々しい空気がこの映画を透明感のある美しい作品に仕立て上げている。

鏡の中で、うたの身体から離れていくうたの分身。
うたの中から離れていく音。

それでも、うたは言う。

大丈夫。あたしは音楽だから。

あのコンサート会場でピアノを奏でていたのは、もしかしたら分身の方だったのかも知れない。

耳の中でセミが泣いていると言ううたは、たぶん、亡くなった父親と同じように、この後、音を失うのだろう。

自分にピアノを残して死んだ父、何もない学校生活、耳から消えていく音。そして初恋。

普通の中学生である部分のうたの悩みは深い。

ワオにとって、うたが音の神ならば、うたにとっても、またワオは音に誘う神なのかも知れない。

ピアノの墓場で連弾するうたとワオの笑顔が、うたの幻影かも知れない、と思えば思うほど切なく、優しい。


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