『クロエの祈り』こんにちはパレスチナ

クロエの祈り

原題 : ~ Inch’Allah ~

    

作品情報

監督・キャスト

監督: アナイス・バルボー=ラヴァレット   
キャスト: エヴリンヌ・ブロシュ、サブリナ・ウアザニ、シヴァン・レヴィ、ユーセフ・スウェイド、アフマド・マサド、カルロ・ブラント、ヨアヴ・ドナット

日本公開日

製作: 2012年(日本未公開)

レビュー

☆☆☆☆

2015年2月8日。DVD観賞

自分たちの聖地にさえ足を踏み入れることを許されない人々が暮らすパレスチナ「入植居住区」。

可哀想とか、どうにかしてあげればいいのに、というのは簡単だ。同情や正義感だけでは世界は動かない。
無力な1人の「部外者」が見るラストの光景が、やるせない感情となって見る者の心に突き刺さる。

「あなたは一体、何者なのか?」

あらすじ

<あらすじ>
カナダ人で赤十字のボランティア医師・クロエは、イスラエルに居住しながらパレスチナの診療所で働いている。
同じアパートに住むイスラエル人のアバは一緒に過ごす時間の多い友達。
また、パレスチナ人の妊婦の患者・ランドも親しい友達として家族ぐるみ深く関わっている。

ある日、パレスチナ人がイスラエル人から受ける暴行の現場に遭遇してしまったクロエは自分の立場について深く悩むようになる。

入植居住区のアバ

クロエ経由でランドに口紅を贈るアバ。嫌がりながらもそれをつけて微笑むランド。

2人とも普通の年頃の女性だ。けれども、アバは徴兵で検問所に勤めている。ランドは「入植居住区」に閉じ込められた身だ。

2つの地域を行き来するクロエは初めは軽く橋渡しするくらいの気持ちでいたのだろう。
スマホで動画を撮る。「こんにちは。こんにちは、パレスチナ。」
    

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パレスチナ問題の部外者

パレスチナ問題の根は深い。
「部外者」が「あれは暴力的だ」とか「仲良く分け合えないのか」とか「物騒だ」とか「可哀想だ」とか…そんな風に言えば何とかなるものではないのだと。

クロエと同じように、見ている者もただ現実を突きつけられるしかない。

ただ解るのは、そこにいるのが何人であろうが人間だということだ。

原題は「INCH ALLAH ~ インシャラー」「神の思し召し」である。
これが思し召しだとしたら、本当に神様は残酷だね。

出口の見えない救いようのない思いを噛みしめながらも、それでもこの映画と出会えたことを感謝する。
現実を知り、世界について考える事が大切だから。まず知ることが必要だから。

「部外者」こそが見る必要のある作品である。多くの人がこの作品と出会いますように。
 


以下ネタバレ感想

 

私は壁でも石でもない。

検問を通る事が出来ず、ランドの子どもは世界に殺された。
救えなかったクロエの心は重い。

聖地を踏ませてあげてもそこが彼らの物になる日は来ない。

繰り返される虐待と自爆テロ、報復の連鎖。

ランドを通してあげることができない検問所の兵士の表情。彼らも解っているんだ。産まれてくる子は「人間」だと。

パレスチナの英雄として自爆したランドの「殉教者」ポスターを印刷する兄。
こうして「殉教者」を礎にして、またきっと新たな報復が生まれる。

反撃して死んだ者が英雄になるのではなく、生きて平和に尽くす人間が英雄になる日がこの地に来るのはいつなのか。

壁の向こうから流れてくるコーランに耳を傾けるあの少年が、そういう日を迎える事が出来るといい。

そう書きながら、私もやはり「部外者」なんだな…と虚しく思う。
「殉教者」として印刷されるランドのポスターを見て叫んだクロエと同じくらいに、どうしようもなく部外者なんだ。

  

★前田有一の超映画批評★

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