『さよなら、アドルフ』誇り高きナチスの子

さよなら、アドルフ ~ Lore ~

    

監督: ケイト・ショートランド   
キャスト: サスキア・ローゼンダール、カイ・マリーナ、ネレ・トゥレープス、ウルシーナ・ラルディ、ハンス=ヨッヘン・ヴァーグナー、ケイト・ショートランド、ミーカ・ザイデル、アンドレ・フリート
公開: 2014年1月11日

2014年9月8日。DVD観賞

1945年、春。ナチスドイツはベルリンの防衛線を突破されていよいよ敗戦の色濃く、政府の要人までもがベルリンから退去し始めていた。

ナチス親衛隊(SS)の高官である父を持つ主人公・ローレ一家も住み慣れた家を離れるが、逃げた先にも安全はない。やがて父が家から消え、14歳のローレに妹と幼い双子の弟、そして生まれて間もない赤ん坊を託して母も消える。

「誇りを失わないで」

自分が戻らない時はハンブルグの祖母の家へ行くようにという母の言葉の通り、住む家を失くしたローレたちは900キロ離れた祖母の家に向かって歩きはじめる。
   さよならアドルフ1.png

疎開先の森の家を出た後は、過酷なロードムービーである。

持って出てきた大きな荷物、幼い弟たち、赤ん坊…。
「ナチの子ども」に食料を快く分けてくれる人は少ない。金目の物はどんどん無くなっていく。

そんな中で出会ったユダヤ人の青年・トーマス。
事情をよく解っていない弟たちや妹はすぐに彼に懐くが、ローレの中のナチスの子である誇りはユダヤ人を受け入れない。

受け入れたくないけれども頼れる存在は他にいない。
敬愛し信じていたナチスが、そして自分の父親が、どんな犯罪を犯したのか知ってしまった。
   さよならアドルフ2.png

そして14歳の少女の恋心。
ローレはたくさんの重荷を背負って900キロを歩き続ける。

ローレ役のサスキア・ローゼンダールが素晴らしい。時に誇り高く、時に繊細で、強くて、そして美しい。
   さよならアドルフ.png

妹弟たちの前ではほぼ無表情に家族の長を演じながら、1人になった時の複雑な表情には心が痛む。
たった14歳で家族を背負い、食料の心配をし、ただ生きるために黙々と歩く…。

そんなローレだから、ラストの方に見せる感情の爆発には年齢相応の弱さや子どもっぽさも見えて、哀れだけれども少しホッとする。
   さよならアドルフ3.png

ナチスの家族の戦後を描いた映画を見たのはこれが初めて。(そもそも他にあるのか解らない)
お父さん戦争のとき何していたの [ ペ-タ-・ジィフロフスキ- ]』は、読みごたえはあったけれども戦後の過酷な話は特に書かれていなかった。

ローレは今後どうなるのだろう…。
信じていたものが全て崩壊して、愛する者を失って。

革命に絶望して憎しみを捨てられず、神経質で気難しい女と言われて生涯を閉じたというマリー・テレーズ…マリー・アントワネットの娘を思い出してしまった。

戦争はいつの時代も、どんな国でも、残された者の心に傷をつける。
それは敵であろうが味方であろうが同じ。
傷つくのは何の罪のない子どもたちばかり。

戦争の悲惨さやホロコーストをプロパガンダ的に描いたものではなく、信じていた世界が崩壊し、無理やり大人にさせられた少女の姿を描いた作品。

 


以下ネタバレ感想

 

 

人の嫌な面をたくさん見せられる映画だけれども、それも仕方ないよね。
戦後、ナチスに裏切られたという思いを抱えて生きなければならなかったのは子どもだけではなく、みんなそうだったのだから。

みんなナチスドイツが負けるとは思わなかったし、彼らが何をやっていたのかもよく知らなかった。
裏切られた悔しさはナチスの家族に向けられる。それが子どもであってもだ。

「アメリカ人にはユダヤ人の方が同情買えるから」
そんな事情で成りすましを行っていたトーマス。
アメリカは加担していないから。「外から」の人の目線は弱者に同情的。ナチの家族は弱者に当たらない。
トーマスとは一体誰だったのか。
何の目的でローレの側に居たのか。

初めは身体目的なのかと思い、後には恋心なのかと思い…。
本当にユダヤ人ではなかったのか、本当はそうだったのか、それすらも解らない。

ローレには身分証の秘密を明かさなかったという事は、本当にユダヤ人だったのかも知れない(身分証の人間とは別人の)と、ちょっと思っている。

ハンブルグのお祖母さまは、東ドイツ的な人だった。(西なんだけどね…)
厳しくて難くて高圧的。

妹と弟はきっと順応していくのだろう。
けれども、ローレはあの家ではずっと暮らしていけないような気がする。

この先、再びトーマスと会える未来を勝手に脳内で想像する。
ローレの複雑な心を全て理解している彼にしか、ローレを救えないような気がするから。

「さよなら、アドルフ」公式サイト

 


さよなら、アドルフ@映画生活トラックバック
・象のロケット

★前田有一の超映画批評★

※ Seesaaのトラックバック機能終了に伴い、トラックバックの受け付けは終了させていただきました。(今後のTBについて)

ttp://blog.seesaa.jp/tb/405099554

comment

タイトルとURLをコピーしました