『11・25自決の日 三島由紀夫と若者たち』憂国の徒

11・25自決の日 三島由紀夫と若者たち

  

監督: 若松孝二   
出演: 井浦新、満島真之介、タモト清嵐、岩間天嗣、永岡佑、鈴之助、水上竜士、渋川清彦、地曵豪、大西信満、中泉英雄、橋本一郎、よこやまよしひろ、増田俊樹、中沢青六、長谷川公彦、韓英恵、小林三四郎、岡部尚、安部智凛、藤井由紀、小倉一郎、篠原勝之、吉澤健、寺島しのぶ
公開: 2012年6月2日

2013年4月8日。DVD観賞。

非常にお恥ずかしい話ですが、私は「三島事件」「楯の会」もよく知らず、この映画で初めて詳細を知った。

そんな私が見たこの映画の三島の思想は「狂ってる」でしかなかった。
三島自身も「多くの人は理解できないだろう」と語っていたようだけれど。

こんな私は「平和ボケ」ですか

…という風にストーリーの感想を細々と書くと思想の問題に発展し、面倒なことになるので書きづらい…。
ここはただの映画の感想のみサラッと。

1970年11月25日。作家・三島由紀夫は自身が結成した民兵集団「盾の会」のメンバー4人(学生)と共に自衛隊・市ヶ谷駐屯地にて総監を人質に総監室を占拠。人質解放の条件は「午前11時30分までに全市ヶ谷駐屯地の自衛官を本館前に集合させること」。

自衛隊がこの条件を呑むと、三島は集合した自衛官の前で演説し、後、総監室で日本刀にて総監の目の前で割腹自殺をした。盾の会メンバーである森田必勝もこれに続き、残りのメンバーは全員その場で逮捕。総監は解放された。
いわゆる「三島事件」である。

この映画は、この三島事件に至るまでの経緯が描かれている。

前述しましたがよく知らなかったので、見た後で色々と調べた。…と言っても本を何冊も読むほど興味を持ったわけではないのでネットで。
結果、事件の詳細はWikipediaがやはり一番きちんと綺麗にまとめられていた。

しかし、Wikiを読もうが、他にも書いてあるページを読もうが、2ちゃんを覗いてみようが…やっぱり私にはこの人たちの気持ちは理解できなかった。

国を憂う気持ちは尊びたい。それは大切な事だ。しかし、それがなぜ軍隊に繋がるのだろう。しかも「我々は軍国主義ではない」という。

もちろん、戦後すぐではないにせよ、今とはちょっと時代の風潮が違う。
60年代、日本は今より遥かに熱かった。学生が教授や大学を相手にデモ活動を行い、各地で学生運動が起きた。日本の治安は乱れていた。

これは「物騒だ」とも言えるし「当時の学生は考えていた」とも言える。
今の日本人は権力に反発なんてしないし戦わない。反発するまでに思考する事もないのかもしれない。「だって、ダリィし」。

そう考えると、三島の憂国の正体も何となく解るような気がしてくる…。

だからと言って、軍に支配される国に戻ればいいとはとても思えない。

この映画の中には「家族」がほとんど出てこない。盾の会に参加するにあたって、こんな活動をしている事を憂う親の姿もわずかに描かれるだけ。
いや、三島自身に関してもそうだ。妻・瑤子は頻繁に出て来るものの、特に三島がやっている事を非難も容認もしない。劇中では三島の子どもすら描かれないのである。

たぶん、妻子に対しての葛藤などは特になく、自分の事(三島的には「国の事」なんだろうけど)で精一杯だったのだろう…いや、実際はどうだったのかは知らないけれども、少なくともこの作品の三島はそうだ。

親よりも家族よりも「国」なんだ…と思うと、やはり自分勝手だ、としか思えない…。あなたの命は親から貰った命なのだから。子に繋ぐ命なのだから。

ああ、ほら、思想については書かないとか言ったのに、ストーリーの感想に触れると結局こうなっちゃう。

つまり、ストーリーとしては、ほぼ史実をそのまま描いたと思っていただければ。

「三島事件」についてザっと知りたいという方にお薦めの作品。

そうとしか言えない。

この映画のエンドロールにアルファベットが流れるのは相応しくないからと自ら「ARATA」から「井浦新」に改名したというARATA兄ぃの演技は相変わらず秘めた狂気が感じられてピッタリだった。

三島の妻・平岡瑤子を演じた寺島しのぶさんは、若松監督の「キャタピラー」の時と本質的には似ている気がする。夫をただ見ているのである。心の内は明かさない。しかし考えている所はたくさんある。あるけれど明かさないで微笑んでいる。当たり前だけど、そこが何だか不気味で上手い。

意外だったのが森田必勝を演じた満島真之介さん。
某朝ドラの時は、本当に棒演技なのか隠してるのか解らなかったんだけど。 隠していたんですね。
純真な故に日本を憂い、三島に惹かれ、死に惹かれていく必死な青年の姿が確かに見えた気がした。

 

ここから下ネタバレ観てない方は観てから読んでね 

    


今のだらけきった日本を救うのは軍隊だ。
日本の軍隊と言えば自衛隊だ。

と、自衛隊に訓練にまで行っていた人…だとは初めて知った。

あの時代を「だらけきった」と表した三島が今の日本を見たら一体どう思うのだろう。

我々は公務員。つまり役人なんですよ。
軍隊によるクーデターというのは発展途上国にのみ有効だ。

と言われて失望する三島。
その結果、自らが投資して作ったのが「盾の会」だった。

全てが終わった後の平岡瑤子が印象的。

なぁんにも変わってない。

そう。あれだけの事件は風化され、なぁんにも変わらない。

三島は何を変えようとしたのだろう。何と戦おうとしたのだろう。

「改革」というのは、「生きること」を前提とした物であってほしい。
三島は明らかに初めから死に向かっており、学生たちをそれに引き込んだ。

映画は事件も三島の思想も肯定するの出も否定するのでもなく、ただ淡々と描く。
私には「なぜ今、三島事件なのか」それが解らないまま終わった。

「11・25自決の日 三島由紀夫と若者たち」公式サイト

 

 

 


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